L'Anovelién

UNO=日昌晶

Author:UNO=日昌晶
日昌晶(ひよしあきら)
小説家にして作家デビュー請負人、ストーリーコミュニケーションコンサルタント
原稿執筆や講演・講義、オタクビジネス・マーケティングのコンサルティングまで幅広く活躍中!
 unokyokai@gmail.com

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第2回日昌晶掌篇文学賞 12月期選考結果発表

【金賞(12月期月間賞)】
該当作なし

【銀賞】
『十二月に咲く向日葵』 KAIN

KAINさんの4ヶ月連続入賞となりました。
ただし金賞でないのは、当然ながら審査の目が厳しくなってしまうこともありますが
モノローグの文章にもう少しがんばってほしいなと思ったところと
ストーリー的にももうひとひねりさせるか、もう少し人間の心のひだを書いてほしいなという期待をこめて
今回は銀賞とさせてもらいました。

【佳作】

『逆転プラモ』雷都
『メリクリ魔女』摩璃唖
(以上2作品、投稿順)

『逆転プラモ』は発想はドラえもん的でおもしろいのですが、プラモである必要性とか
(操縦するならラジコンでは?)といったギミックにひと工夫ほしいところでした。
あとはプラモに対して主人公がどう思い入れがあるかなど書くと深みが増したでしょう。

『メリクリ魔女』は、これもアイデアがよかったですね。巧い感じです。
惜しいのは、もう少し文章を洗練させると、もっとすっきり読めたんじゃないですかね。
魔女の魅力を活かすように書いてもらえると、もっと評価も高くなったと思います。


《総評》
12月もKAINさんの入賞ということになりました。
人情モノを得意とするKAINさんはスタイル的にも堅調に作品を書けるので
どうしてもコミカルな作品で勝負するとなると、かなり思いきったものを書かないといけません。
ほとんどの人は着想時のアイデアはいいのですから、これを引き立てるストーリーと
ちょっと意外性のあるオチを用意してあげてください。
どうもアイデアを考えつくよりも、アイデアをまとめることに時間を割いたほうが効果的ですよ。


《受賞作品全文掲載》

十二月に咲く向日葵 KAIN

 十二月に咲く向日葵を見たのはね、息子が持ってきた三回目の手術の話を私が断ったことがきっかけだったの。
 いえね、断ったのは家族に邪魔者扱いされているとか、そういうのじゃないのよ。
 嫁は優しいし、孫も抱かせてくれたし。
 でも、私も来年は八十。
 長患いの挙句、これ以上迷惑かけるのもねぇ……。

 ところがね、孫がどこかで聞いたらしく、私の病室に来るや、
「お婆ちゃん、手術を受けてまた一緒に遊んでよ」
 って言うんですよ。
 その言葉にしみじみ思ったの。
 生きててよかったと……。
 でも、もう甘えちゃいけないってすぐに思い直して、
「もういいんだよ。皆のお蔭で充分幸せだったから」って。
 そう言うと孫がわんわん泣くんです。私、本当に困って、
「じゃあ十二月に向日葵を見せてくれたら、もう一回だけ頑張ろうかな」
 って……思わず。
 するとね、涙でくしゃくしゃになった顔で孫が言ってくれたんです。
「絶対に咲かせる」って。

 その日はね、クリスマスで、この冬初めての雪が降っていたの。
 朝早くに病室に飛び込んできた孫が、お婆ちゃん、外見て! って。
 なんだろうって窓から覗くと、孫と同じぐらいの歳の子が病院の中庭にいっぱい……。
 あれは学年中の子供たちが集まってくれていたんでしょうね。
 私が驚いて目を丸くしていると、子供たちが病院の中庭に大きくて綺麗な向日葵を咲かせてくれたんです。

 どんな手品かって?
 子供たちが手にしていた傘を一斉に広げて、向日葵を作ってくれたんですよ。
 真白な雪のなか、向日葵の花弁が次々と綻んでいくように、傘がぱあっと開いていったの。
 黄色の他に、赤や青、朱に紫に若草色。本当に鮮やかでいろんな色があったわ……。

 ――おかしいですよね。赤や青の混ざった向日葵なんて。
 でもね、傘の隙間から時折覗く、寒さで真赤になった子供たちの頬を見て、私にははっきりわかったの。
 これは間違いなく向日葵だって。
 孫と子供たちが、十二月に咲かせてくれた奇跡の花だって……。

Chechttp://lanovelien.blog121.fc2.com/blog-entry-653.htmlk
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第2回日昌晶掌篇文学賞 11月期選考結果発表



【金賞(11月期月間賞)】
『愛に贈るラブレター』 KAIN

9月に銀賞、10月に金賞、そして11月も金賞を受賞となったKAINさんです。
最近の投稿者では頭ひとつ実力が飛び抜けているため当然の受賞となりました。
ライトノベル的ではないのですが、しっかりと読ませる人情物は、しっかり文学です。
ネタバレになってしまうので書きませんが、結末は予想どおりながら先を読めそうで読めない、
そんな絶妙さ加減は実力を感じさせてくれました。

【銀賞】
『好きこそものの上手なれ』 椿

こういう作品は個人的に好きです。アイデアもいいですね。
金賞に一歩およばず銀賞にとどまってしまったのが、もう少し前振りとオチに連携がほしかった。
主人公の「努力」を具体的に書いて「師」と絡められていたら、より作品が引き締まったでしょうね。


【佳作】
『かえがたいたから』 add.
『マナ識に浮かぶうなぎパイ』 葉月
(以上2作品、投稿順)

『かえがたいたから』はなかなかシュールでユニークな発想が光っていました。
字数制限があるのですが、もう少し物語として劇的に演出できていたら上の賞が狙えていたでしょう。
その発想力を大事にしてください。

『マナ識に浮かぶうなぎパイ』は序盤はいいアイデアなんですが、オチは微妙なんですよ。
ただし佳作に選んだのは、タイトルにやられました。わけがわからないんですよね。
でも妙におもしろいし、なんとなく作品にもマッチしているような気もする。
やはりタイトルも大事だということで佳作おめでとうございます。

《総評》
今回は13作品の応募でしたがパロディ的な作品が目立ってました。おもしろい傾向です。
ただしほとんどの作品が、まだパロディにはなっていないのが残念なところです。
パロディ作品というのは、元ネタを自分なりに消化しきって換骨奪胎しなければ
ただのマネ、パクリとなってしまいまうので注意してくださいね。
来月の作品も期待しています。


《受賞作品全文掲載》

愛に贈るラブレター KAIN

 家の改築に伴う引越しの準備をしていた際、偶然見つけたのは封筒に入った離婚届だった。
 親父からお袋に宛てたものだと分かったのは、封筒に書かれた文字からだ。
 しかし離婚届には、お袋の名前が記されているだけだった。
 封はすでに切られていた。

「また何か見つけた?」
 二人の遺影を見つめる私の背後から妻の声がした。
 私が離婚届を差し出すと妻は「あの時の……」と呟いた。
 妻の、予め知っていたかのような言葉に私は驚く。
「知ってたのか?」
 そう問いかけた私を遮ったのは娘だった。
「あー、またサボってるー」
 笑いながら妻の元へ駆け寄る。
 娘は今年小学生になったばかりだ。そんな娘にまさか離婚話を聞かせるわけにもいくまい。
 この話はそれきりになった。

「昼間のあれ――」
 ようやく話を切り出せたのは、娘が隣の部屋で寝息を立て始めた頃だった。
「うん、知ってた」
 それから妻は生前のお袋が語ったという、離婚届と私にまつわるこんな話をした。

 親父は出産を強硬に反対したという。
 出産は危険で、母子ともに命の保証はできない、と医者は警告していた。
「だから、お義母さん、
『私は死にません。子供も絶対に死なせません。産ませてくれないなら私一人で産みます』
 って離婚届を叩きつけたんだって」
 受け取った離婚届に封をして、親父がお袋に渡したのはその三日後だった。
「わかった」と一言だけ添えたという。
 そうして産まれたのが、私だった。

「これね、じつはラブレターだったんだなって」
 離婚届を手にした妻が微笑む。
「どういう意味だ」
「この離婚届はね、お義父さんが、お義母さんとあなたに贈った、命をつなぐラブレターなんだよ」
 妻の言葉に、私は何だかくすぐったい気分になった。
「だったら――」
 そう言って私は襖の方を振り返った。
「親父とお袋が、愛に贈ったラブレターだな」
 親父とお袋から命をつないだ娘は、二人から「愛」という名を贈られていた。
 少し開いた襖から、愛の安らかな寝顔が覗いていた。


好きこそものの上手なれ 椿

 俺には一生涯を通じて尊敬し、師と仰ぐ人物がいる。彼の人は勉学を積み、学問こそが人の価値を高めるのであると考えているのだが、その教えにいたく感動を覚えたのである。俺は価値とは目に見える成果であると考えている。学問は価値であるとする教えを知ってからはがむしゃらになって勉強するようになった。ただし、手当たり次第に知識を増やしてみたところで活用できなければいけない。俺が選んだのは生物学と数学の世界だった。それからの世界は一変した。今まで理解できなかった仕組みや謎が真実を携えてやって来たのである。俺は歓喜した。これまでのそう短くは無い人生の中でこれほどまでに努力した事は無かっただろう。勿論辛いと思う時もあったが、これで素晴らしい人生が待っているかもしれないと思えば頑張れた。師は俺の下らない人生を大きく変えてくれたのだ。
 そして今。今まで積み上げてきた努力の成果を発揮するべき時が迫っている。この戦いでは持てるすべての力を駆使した。誰よりも努力してきた自信もある。数分後には訪れるだろう未来の自分を思い浮かべる。師の写真を懐に抱え、胸を張って道の真ん中を歩んでいるに違いない―。

「なあにが『学問のススメ』だ、諭吉のバカヤロー!!」
 くたびれた格好をして、悲痛な声を上げている男が一人。右手には紙くずとなった馬券を握り、左手には軽くなった財布。仁王立ちで吼える男の声は、悲喜こもごもに反応を示す周囲の者たちの騒々しい声の中に紛れていった。

天高く馬肥ゆる季節、競馬場に広がる空は本日も快晴である。

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第2回日昌晶掌篇文学賞 10月期選考結果発表

とりあえず月間賞の選考は、これで追いつきました。
あとは前回のグランプリですが、近日中に発表したいと思います。

【金賞(10月期月間賞)】
『幸福な人生』 KAIN

先月は銀賞だったKAINさんの作品が久しぶりに金賞となりました。
情感がよく描写できているし、作者のテーマ性がよく描けていたのを評価しました。
最近の投稿作にはシーンやネタだけを考えてしまっていて、
その内奥にあるテーマを感じられるものが少なくなってしまっているなかで
すっきりしたかたちで、よく書けていました。これからを期待させてくれますね。

【銀賞】
該当作なし


【佳作】
『バナナ総統』 文作
『純煉』 鳩
(以上2作品、投稿順)

『バナナ総統』は着想は面白かったですね。
惜しむらくはヒネリがないまま終わってしまってオチがない点です。
この手の笑える作品は落語と一緒でオチないとしまりがなくなってしまうので気をつけてください。

『純煉』は情感のある作品ではありますが、ただ一点、難点がありました。
原文では「不明」と書いてしまっていますが、この作品でもっとも重要なのは
「彼女はなぜ死に憑かれていたか」という主題になります。
ここを結末部分にでも明示して、すっきりさせてもらえると作品が引き締まります。


《総評》
ここのところ投稿作品数が少ないので、佳作が少なくなってきていますが
それとは別に作品の方向性がブレてしまっている作品を多く見かけるようになりました。
ネットのコピペをそのまま貼りつけた作品とかもありまして、それはそれで題材として使ってもらって
それに作者なりの表現なりオリジナリティを加えてもらえればいいのですが、そこまでいってないんですね。
もっとも気になるのは、作者として自分の作品を読んでもらったときに、
どう思ってほしいのかをよくよく考えて作品を考えてください。
自分の思いや考えが通じるかどうか、作品の良し悪しはそこにあります。


《受賞作品全文掲載》

『幸福な人生』 KAIN

 わずかばかりの弔問者を迎え、叔母の通夜はしめやかに行われた。
 戦後の混乱の中で生まれた叔母は、すでに他界した私の母と同様、苦労の多い人生を送っていた。若くして嫁いだ叔母は子を為さぬゆえ離縁させられ、以来ずっと一人だった。
 そんな叔母の最後を見送る場の寂しさに、私の胸はつまった。
「和江さんは賑やかなのが嫌いだったからね」
 そんな囁きが聞こえた。
 叔母は賑やかなのが嫌いなのではなく、人の多い場所が苦手なだけだった。

「人込みに飲まれ、そのまま消えちゃいそうだろ」
 以前、面倒をみたいと申し出た際の叔母の返事がそれだった。私は人の溢れる都会に暮らしていた。
 初めは「消える」という意味がよく分からなかった。
 しかし体調を崩し、いよいよという時になって、叔母はぽつぽつと語りだした。
「あんたのお祖母ちゃん、つまり私らのお母ちゃんは、私らが小さい時に男の人と――」
 秋祭り一番の盛り上がりをみせる「宵待ちの山車」が夜の街に繰り出され、通りに人が溢れた頃、人込みの中へ消えてゆき、
「お母ちゃんとはそれっきり……」
 叔母の声に悲しみはなく、どこまでも穏やかだった。そのことがかえって叔母の胸の内を想像させ、私は辛くなった。

 叔母は幸せだったのだろうか――。

 通夜を終え、ちょうど控え室へ行くときだった。斎場の入口に年老いた女性の姿が見えた。
 弔問者名簿に記帳を終えた女性は、祭壇の前へ進んだ。
 受付の者から、その女性が遠方より駆けつけてきたことを知った。
 女性が焼香をしている間、名簿を確認した私は思わずはっとなり女性を見つめた。
 焼香する女性の、小さな背中が震えている。
 名簿の、故人との関係を示す欄には「親友」と記されていた。
 書かれた文字が滲んでいるようにみえるのは、気のせいではないと思う。

 はたして、私には「親友」と呼べる友はいるのだろうか。
 黒い額縁の中の叔母は、穏やかに微笑んでいる。
 叔母にとっては存外、幸せな人生だったのかもしれない。


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第2回日昌晶掌篇文学賞 9月期選考結果発表

さあ、連続して9月期の発表となります。

【金賞(9月期月間賞)】

該当作なし

【銀賞】
『エルフ耳』 KAIN

ファンタジーによく登場してくるエルフをモチーフにしつつファンタジー要素のない青春の一コマというのは
なかなかおもしろい組み合わせかなと思いました。アーチェリーというのも微妙にかぶっていてよいですね。
ただ一点、金賞とまでは至らなかったのは、主人公が普通の子すぎてしまったことです。
エルフ耳にコンプレックスを持つ少女は、それだけで感じ方や考え方は自然と普通の子とはちがうでしょうし
作品として、主人公ならではの性格を前面にだすべきなんですね。
その点を改善してもらえればよりよいものになるでしょう。

【佳作】
『世界でいちばん長い物語』 雷都
『さけ』 ピロシキお兄さん
(以上2作品、投稿順)

『世界でいちばん長い物語』は、タイトルのほうが本文より長いというか、1文字だけの作品でした。
アイデア勝負ということで評価させてもらいました。

『さけ』は、情感がよく、まとまってもいました。
惜しむらくは、もう少し読者に親切に書いてもらうとよかったかと思います。
あとはかなり高等テクニックになりますが情景に心理描写を加えてくると、もっと味がでたでしょう。


《総評》
9月期は12作品の応募だったので、母数が少なかったためか、金賞はなしとなりました。
そのぶん佳作から漏れてしまう作品の傾向がよくわかってきたのですが、
叙情的なのはいいのですがストーリー性がほとんどなく抽象的な表現に終始してしまっているタイプと
もうひとつはオチがないというか、尻切れトンボでぷっつりと終わってしまっていて
最終的になにが言いたかったのか作者のメッセージ性が伝わってこないタイプの2つが多いですね。
この2つのタイプの作品に共通して言えることは、読者の立場に立って書かれていないということです。
どうしても作者の都合や気持ちだけで書いてしまって、ひとりよがりになってしまっているので
自分の作品を読んで読者がどう感じるか、おもしろく思ってもらえるかを考えて
読みかえしてみて、ぜひ推敲してみてください。それだけでも飛躍的によくなると思います。

《受賞作品全文掲載》
『エルフ耳』 KAIN

 アーチェリーの高校総体予選が始まる前。
 手首に巻いた真白なスカーフはそのままに、肩まである髪を私はポニーテールのように右手で纏めた。覗きこんだ鏡に、両耳が露わになった自分がいる。
 こうした方が集中力は高まる。だけど、この耳を人前では晒したくなかった。
 お伽話のエルフみたいに尖っている自分の耳が、私は大嫌いだった。
 似ているのは耳だけじゃない。色白の肌、色素の薄い茶色の瞳、その他全部。もちろん胸も、ない。
 うさ耳やねこ耳は持て囃される。だけどこの先、エルフ耳はないと思う。

「エル先輩、時間です」
 エルフに因むニックネーム――実はこれも嫌い――で私を呼ぶ後輩の声に慌てて髪を下し、私は弓を携えて試合会場へ向かった。あとひとつで総体への出場が決まる。

 会場に啓子先輩の姿を見つけて、私の胸は高鳴った。今年の春に卒業した、皆の憧れの先輩だ。約束どおり応援に来てくれたのだ。

 去年の夏。総体への出場は私のミスで逃してしまった。泣きじゃくる私を優しく慰めてくれたのは先輩だった。
 そして卒業式。先輩は自分の着ていたセーラー服の真白なスカーフを私にくれた。
 隅には「総体ぜったい出場」の刺繍。
「エルは耳のこと気にしてるけど、私はキュンとして可愛いと思うな」
 私の髪を撫でながら言ってくれた。
 ちょっとだけエルフでもいいかな、と思った瞬間だった。

 的の前に立つ。先輩のスカーフで髪を縛る。露わになった耳に、恥ずかしさで震えそうになる。けれどそれを乗り切るとどうなるか、私にはわかっていた。

 刺繍の下に並んだ、啓子のKとエルのLの二つの文字。
 先輩は髪を優しく撫でた後、歌うようにABC……と続けた。
「アルファベットだといつも隣同士でしょ? だから試合中はいつも――」

 ――先輩が隣にいてくれる、そんな気がした。
 だんだん集中力が高まっていく。何も聞こえなくなっていくエルフ耳。スカーフと同じに気持ちが真白に洗われてゆく。
 私は矢をつがえ、弓を引いた。

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第2回日昌晶掌篇文学賞 8月期選考結果発表

もう11月だというのに選考が遅れに遅れてすみませんでした。
今週中に8、9、10月の結果発表を行いたいと思いますが、だが、しかし!
8月の結果は不本意ながら、残念な結果となってしまった……。

【金賞(8月期月間賞)】

該当作なし


【銀賞】

該当作なし


【佳作】
『シーブ・イッサヒル・アメル』摩璃唖
『屍売り』ドン・ルイス
(以上2作品、投稿順)

『シーブ・イッサヒル・アメル』は、いかにもなファンタジー的なお話で雰囲気がよかったです。
あとはもう少し心理描写に力をいれてもらえると、その上を狙えたのではないかと思います。

『屍売り』は、着想は期待させるものが多かったのですが、いかんせん読者に伝わりにくかったですね。
文章量的に複雑な設定などは書ききれないので、イメージ先行の展開に陥らずに
もう少し読者にわかりやすくストレートに書くとよかったですね。
もっと

《総評》
金賞、銀賞なしというのは今回が初なので、佳作を繰り上げてもよかったのですが
それは他の月との公正な選考基準に反するので、心を鬼にして受賞なしとさせてもらいました。
佳作にも惜しいところで手の届かないところがあり、佳作に漏れた作品にも惜しい作品が多かったですが
いまひとつ全体的にメリハリがないというか、短いながらまとまりがついていない作品が多かったですね。
それと毎月やっていて、応募作もかなりの作品数にのぼったため、ステレオタイプ的なかぶってきました。
これからはアイデアだけでなく、先人たちとの知恵比べになってくるということで
さらに苦しくなるとは思いますが、今後ともがんばってください。

Chechttp://lanovelien.blog121.fc2.com/blog-entry-595.htmlk

第2回日昌晶掌篇文学賞 7月期選考結果発表

この記事を書き終えた直後に全データが消失……こういう日もありますよね。
第1回のグランプリはまだ選考途中です。もう少し時間をください。
その前に第2回の最初となる7月期の発表です。

【金賞(7月期月間賞)】 (副賞:600円ギフト券)
『幻肢痛より愛をこめて』 雷都

すでに常連となった雷都さんの作品は安定感がありますね。コツをつかんでいるのでしょう。
着想がおもしろく、読者の興味を惹くのが巧いです。
そしてオチのまとめ方もよかったですね。まるで掌篇のお手本のような作品でした。


【銀賞】
『不和回廊』 鳩

こちらも読者を惹きつける力は負けていませんでした。
謎めいたストーリーも巧く処理して描けていました。
ただ一点だけ、銀賞となった理由は最後のオチがやや強引な展開でした。
前半の強引さは気にならないものですが、後半の強引さって結構、気になるものです。
そこを改善してもらえれば金賞になったかもしれないほどの作品でした。


【佳作】
『紙飛行機』 ジャイ
『渡し賃 ~三途川の渡し賃~』 KAIN
『*幸せになりたいウサギ*』 x
『孤独』 雷都
(以上4作品、投稿順)

『紙飛行機』は、青春の一コマを紙飛行機というガジェットを使って巧みに描けていました。
惜しむらくはもう少し主人公の心情を掘りさげてもらえると、さらに高く評価できたと思います。

『渡し賃 ~三途川の渡し賃~』は、人情ものというんですかね。
滑稽話のようでして、ほろりとさせるところもあって、いい塩梅になっています。
ライトノベルではないのですが、こういう作品を書ける人は少ないので頑張ってほしいですね。

『*幸せになりたいウサギ*』は、最初は絵本のものがたりのようでいて、
オチになるとちょっと考えさせられる展開になっていたのは、いい意味で裏切られる作品でした。
もう少しオチにメリハリをつけてあげると、もっとよくなったと思いますよ。

『孤独』は、金賞受賞作との同時投稿なのですが、一行小説もよかったです。
一行小説のキモは読後にどのくらい読者の想像を掻きたてるかにありますが、その点よく書けていた秀作でした。


《総評》
日昌晶掌篇文学賞も2年目となりましたが、全体のレベルもアップしてきたので
こちらとしても、あまり注文をつけることがなくなってきました。
そのまま各自の個性を活かした作品を書き続けてもらえたらなと思っています。
そして入賞作品も多くなってきたことですし、受賞傾向を研究するということではなく
すなおに受賞作品を鑑賞してみることをおすすめします。
秀作ぞろいですので、読むだけでも、いろいろ気付かされて実力がアップするでしょう。
それでは来月以降も力作をお待ちしています。


《受賞作品全文掲載》

幻肢痛より愛をこめて 雷都

 五体満足に見えるあたしだが、元・千手観音菩薩であるため幻肢痛に悩んでいる。
 今はこうして俗世に紛れ女子高生稼業なんぞをしているが、むかしは人々があたしに平伏し、四十ある腕で二十五の世界を救うと崇められていたものだった。
 しかし、大和撫子ですら足でタマを転がすご時世に、瞑想するだけの観音菩薩は時代遅れだとされて、あたしはリストラされた。
 腕を切り落とされ、人の身として暮らすはめになった。

 はじめは戸惑ったものの、女子高生の営みも、悪くはない。
 人界とは愚かな場所だと思い込んでいたが、人間も悪い奴らではないことがわかった。
 特に、クラスの委員長。彼などは見どころがある。
「きみ。痛そうな顔してるけど、大丈夫?」
 転校してきたばかりのあたしを気遣ってくれる、自愛に満ちた男だ。
「実はな。あたし……」
 かつて千手観音であったことを伝えると、驚きはしたものの、彼はすぐに受け入れてくれた。
「移植、できるかもしれない」
「本当か?」
「うん。今の医学ならね……」
 彼は滔々と、最新の医療技術について語った。

 委員長の目標は医者になることだった。
 未来を語るとき、彼の目はこの世のなによりも輝く。
「僕は、ひとつでも多くの命を救いたい」
 ふむ。
 立派だ。
 二本しかない腕では世界を救うなんてとても無理だが、たった二本でも、人の命ならば救えるはずだ。
 などと、感心していたら。
 幻肢痛が再発した。
 失われた三十八の腕の痛みに、顔が歪んでいたのだろう。
 心配そうに、彼が言った。
「僕には、腕が四十本あった人の気持ちは、わからないけど」
「そうだろうな」
「お互い、がんばろう」
 そしてあたしの二つの手を握った。
 不思議な、感覚だった。
 彼に手を握られていると、あたしは幻肢痛を忘れることができた。
 やはりこの手には、人を救う力があるのだ。
「移植は、しなくてもいい」
「諦めちゃダメだ」
「そうじゃない」
 彼の目を見つめながら、告げた。
「あたしは、新しい腕を、見つけたんだ」


不和回廊 鳩

 下校の足取りは、今日も重い。どこのクラスにでも冴えない奴がいるが、それが僕だ。
 団地の宅配ボックスに膨らんだ封筒が入っていた。『川野裕様』。僕宛だ。製薬会社のロゴの横に『試供品』と書かれている。
 誰もいない家に帰宅して、すぐに封筒を開ける。中から、紙と栄養ドリンクが出てきた。
 紙には『先日はアンケートにご協力ありがとうございました。こちらは中学生向けに作られた栄養ドリンクです。ぜひ、その効果をお試しください』というようなことが書かれていた。確かに、最近どこかでアンケートに答えたような気がする。
 僕は、それを一気に飲み干した。かっと体が熱くなったかと思うと、押し寄せた波が一気に引くように血の気が引く。とうとう立っていられなくなって、その場に座り込んだ。
 どれ程の時が経っただろう。体が軽くて心地がよい。両手を開いたり閉じたりしてみる。異状は無い。
 不思議な感覚だった。なぜか僕は家を飛び出し、学校へ向かった。
 すると、サッカーの授業が行われていた。さっきは一度もボールが回ってこなかったが、今度は何点も決めた。次は、テストの返却。さっきは平均点以下だったが、今度は100点。クラスの皆が讃えてくれて、女子から「今度勉強教えて」なんて言われてしまった。
 ふと気付いた。不登校の加納がいる。派手な女子に混ざって談笑している彼女と目が合った。
「いいでしょ。この世界」
 瞬間、皆が一時停止のように動かなくなった。加納と僕だけが動いている。
 笑う加納を見て、ここにいてはいけないと悟った。帰りたい。
「馬鹿ね。ここにいたほうが幸せなのに」
 加納の制止を振り切り、僕は帰った。
 気が付いたのは、病院のベッドの上。聞いた話によると、煮詰まった大学生が製薬会社を騙り、どこかで得た個人情報を使い、数名の中学生に栄養ドリンクと偽って毒入りの瓶を送りつけたそうだ。
 被害者は僕を含めて6人。加納は、帰ってこなかった。

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第1回日昌晶掌篇文学賞 6月期選考結果発表

遅くなってしまいましたが、ついに第1回日昌晶掌篇文学賞の最終月となりました。
今回までの作品で過去1年間に選ばれた金賞作品の中から大賞が選ばれます。
大賞発表は、もう少し後になるかと思いますが、第2回もはじまっていますので、
引き続き掌篇小説をよろしくお願いします。

【金賞(6月期月間賞)】 (副賞:500円ギフト券)
『缶けり』 ハヤシ

6月になって最初の投稿作品が金賞受賞となりました。これははじめてかもしれませんね。
小説の特徴を活かしたオチがよくハマった作品でした。
一人称の話者である「俺」を通してモテない男の子に感情移入をさせるのと同時に
読者が「俺」に共感するように仕向けた技法などの使い方が巧みでしたね。


【銀賞】

『学食史 ~第二次大戦編』 日暮レ

こちらもなんともバカバカしい内容をもっともらしい歴史書風に描いた作品です。
短いながらよくまとまっていたので、今回は金賞にさせてもらいました。
ただ一点惜しかったのは、ネタの使い方にひねりがなかったところでしょうか。
言葉の使い方や命名法などにもう一工夫されると、もっとおもしろい作品になるでしょう。
ライトノベルでは特に上記のネタが重視されますので、よくよく吟味してください。


【佳作】
『次元脱出』 雷都
『勇者譚』 金色のミヤ
『水溜り、のちに』 鳩
『時を知らせない時計』 ポニィ。
『正しい××教育』 ミカ
『正義の下に~私説 さるかに合戦~』  4E
(以上6作品、投稿順)

『次元脱出』は、なぜか先月あたりから見られるようになってきたメタ小説です。
筒井康隆の『朝のガスパール』みたいな展開でおもしろいのですが、惜しむらくは内輪ネタになってしまうので
何も知らない人が読んでもおもしろみが全部伝わらないということで佳作とさせてもらいました。

『勇者譚』は、ファンタジー風味な芥川龍之介の『薮の中』的な作品で着想はよかったのですが
それぞれのインタビュー内容でクロスしたり矛盾したりするところの扱いが弱かったのが惜しかったので
もう一工夫してもらえると、おもしろさがより引き立ったかと思います。

『水溜り、のちに』は、ありていに言えばよくある話ですが、短い文章の中で
よくまとまっていて情感も出ているので佳作とさせてもらいました。
今後はオリジナリティも含めてストーリーを考えてもらえると、より高評価になるでしょう。

『時を知らせない時計』は、なぜかエドガー・アラン・ポーのような叙情を感じさせる
ちょっとゴシックな雰囲気を評価させてもらいました。動と静の関係性への言及もいいですね。

『正しい××教育』
オチの展開が、あまり見ないタイプでおもしろかったですね。
全体としてほのぼのとした雰囲気ながらも内容はシビアなところもいい感じでした。
掌篇小説のアイデアとして非常にいいかたちでネタが昇華できていましたね。

『正義の下に~私説 さるかに合戦~』は、太宰治の『御伽草子』を彷彿とさせる
昔話を解体して、現代風な語り口でつづってゆく作品で、おもしろかったです。
どうしても字数制限のため語りきれないところが多いのですが、
少し表面的になってしまっていたので、もっと内面的に突っこんで書くともっとよくなったでしょう。


《総評》
いやはやようやく1年分の全作品の選考を終えることができました。
これも投稿してくれるみなさんのご協力の賜です。
最初の月と今月の作品を比べると、手慣れてきたなという印象があり
どれも掌篇小説としての体裁が整ってきているのを実感させられます。
一時的には、それが小さくまとまってしまい、停滞してきた時期もありますが
最近は体裁をわきまえつつも、メタ小説など新境地を開拓しようという気概も感じされて
選者として非常にうれしいかぎりです。
第2回は私さえも思いもおよばない新しいタイプの掌篇小説を期待しています!


『缶けり』 ハヤシ

 散歩をしていると、右手に幼稚園が見えた。園児たちの楽しそうな声が聞こえてくる。どうやら先生も交えて庭で缶けりをやっているようだった。俺は懐かしくなり足を止めた。
 園の庭はバスケットコート半分ほどの広さがあったが、隠れるスペースはそんなにないように思われた。先生は「いーち、にーい、さーん」とゆっくりカウントをとり、園児たちはキャーキャー騒ぎながら隠れる場所を探している。

 ふと庭の隅に目をやると小さな物置小屋があった。小屋の裏には既に男の子が一人隠れており、遅れて一人の女の子がやってきた。
「わたしもここに隠れさせて?」と女の子。
「ここはオレが先に見つけたからダメだよー」と意地悪をする男の子。
 そんなやり取りを微笑ましく見ていると、近くの木に隠れていた別の男の子が「よかったらここ空いてるからおいでよ」と女の子に声を掛けてきた。
「わーありがとう」
 女の子はすぐに誘ってくれた男の子と一緒に木の裏に隠れ、身を寄せ合っていた。
「あ……」
 小屋のほうの男の子は、まさか展開に呆然と立ち尽くしていた。
 多分、二人の男の子はその女の子の事が好きなんだろう。
 生まれてから此方、彼女のいない俺はモテないやつの味方だ! 今はつい意地悪して失敗したけど、お前なら彼女のハートを捕まえる事ができる! 頑張れ! と心の中で小屋の男の子を応援した。
 しかし小屋の男の子は彼女のハートを捕まえるどころか、鬼役の先生に見つかってしまい、逆に捕まってしまった。
 とことんツイてないやつだな……。俺はなぜか必要以上に感情移入をしてしまい、小屋の男の子と自分を重ねて見ていた。
 次は頑張るんだぞ。もう一度心の中でエールを送り、俺が歩きだそうとすると、目の前に同じ服を着た大柄の男性が二人立っていた。

「君、さっきから園の中を覗いて何をやっているのかな? ちょっと近くの交番まで来てもらえるかな?」

 そうして、俺も、捕まった。



『学食史 ~第二次大戦編』 日暮レ

「メニューのうどんとそばをどちらかに一元化する」

 全ては学生食堂の主、オバチャンの一言から始まった。
 不景気、少子化、投機による物価高騰、もしくはただ面倒だったからであろうか理由こそ定かでないが、これにより学内は混乱を呈し血で血を……否、出汁で出汁を洗う動乱の世を迎えるに到ったそのことに変わりはない。
 これぞ後世語り継がれる戦いの引き金、『学食事変』である。


 始めは極々小規模の抗争から始まった。
 それまで冷麺状態を保ってきた両派閥の対立は一気に表麺化、これによって学内のいたるところで日常的に衝突が起こるようになると、抗争はやがてその規模を増して全麺戦争へと発展することとなる。
 当初こそ『二八』の名の示す通り八割方そば派の圧勝かと思われていたが、うどん派は持ち前のコシと粘り強さを生かしてじわじわと巻き返し、両者の力関係は徐々に拮抗していった。


 そうして二者の戦争が次第に長期化の兆しを見せ始めたころ、膠着する戦局を打開すべく進軍を開始したのは遠く伊達男の国よりやって来たスパゲティ、マカロニを中心とする強大なパスタ連合一派であった。
 これによりそばうどん両陣営から多数の離反者が出たことは言うに及ばず、また彼らに便乗する形で両陣営に従属させられていたチャンポン派、沖縄そば派、素麺派等の少数勢力が叛乱を起こし、戦争はかつてない大戦争へと突入した。
 これが世に言う『第二次大戦』である。


 ……戦争は六年続いた。
 スパイ、拷問、洗脳、大量破壊兵器……ありとあらゆる非人道的行為が横行する学内。
 熾烈な戦いの中で多くの同志が力尽き、志半ばに卒業していった。
 ――しかしながら、ここにきて戦争は最終的に決着が着かないまま沈静化の兆しを見せ始める。
 人々は皆、既に疲弊しきっていたのだ。
 やがて三者の間では停戦協定が結ばれ、純然たる多数決によって最後の審判を下すことが定められたのであった。






 投票の結果、ラーメンが学食を支配した。

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第1回日昌晶掌篇文学賞 5月期選考結果発表

さて、だいぶ遅くなってしまいましたが5月期の結果発表です!
5月期の投稿作は35作品でした。
今回は特に選考に悩みましたが、結果は下記の通りとなりました。

【金賞(5月期月間賞)】 (副賞:700円ギフト券)
『執念』 古都たん

ホラー作品です。これまでもホラー作品は多かったのですが、今月は投稿作も多くて
ホラー作品が豊作のときでしたが、その中でも直接的に恐怖が書かれているのではなく
読了してから読み解いて、じわじわと恐怖を感じるタイプなのが特に印象的でした。
掌篇という短い文章の特性をうまく利用していたと思います。


【銀賞】
『秘密基地』 雪希

幼い日のなんでもない情景をきれいに描いていて好感が持てました。
しかもオチもしっとりと決まっていて心地いいんですね。
せりふの関西弁も情感を豊かにしてくれていて効果的です。
欲をいえば、ちょっと冒頭部が技巧的になりすぎたことで頭でっかちになっているので
もっと軽快な文章表現にしたほうが全体の雰囲気にあっていると思います。

【佳作】
『桜の森の満開の』 KAIN
『ラブ&ピース』マブ
『新しいフォルダ』 ポニィ。
『剣はパンに、鎧は鍋に……』 金色のミヤ
『・・・』 守安
『叫び』 01仁杉
(以上6作品、投稿順)


『桜の森の満開の』にはやられました。アイデアが秀逸でしたね。
いわゆるメタ小説というもので「入れ子構造」になっているんですね。
作中の視点は、この日昌掌篇文学賞の投稿者(読者)なのです。
さらに坂口安吾の『桜の森の満開の下』と3月期の金賞受賞作の『黒い桜』
および梶井基次郎の『桜の樹の下には』の3作品をかけています。
しかも選者の私が純文学のオマージュ作品を高評価するのを喝破していて
そのことに対して皮肉まではいっているんですから、もう脱帽です。
ですが一般読者には少々わかりにくいので、申し訳ないですがキンショウではないです。

『ラブ&ピース』を評価したポイントは、ちょっとうがった視点であることと独特のテンポです。
飄々とした感じがすごく自然に読ませるんですよね。
ただし結末が若干わかりにくいので、書き方を含もう少し工夫してもらって
全体を引き締めてもらえていたら上も狙えたかもしれません。

『新しいフォルダ』は今月のホラー作品のなかでも秀作となっています。
同様の題材としては古くから怪談にあるのですが、得体の知れない相手の見えない恐怖を
コンピュータのモニターのみを舞台にして描ききっているところなんかは
小説という媒体を巧妙に活かした演出となっていました。

『剣はパンに、鎧は鍋に……』はファンタジー作品の裏側の非情さが描けていて
しかも悲惨な話なのに童話的なトーンで語られているギャップがとてもよかったです。
掌篇小説ではなかなかファンタジー色の強い作品は世界観説明が充分にできないので
かなり不利になってしまうのですが、この作品では読者の既成概念だけの知識だけで
理解できるようになっているわけですが、なかなかできることではないですよね。

『・・・』はコミカルな作品ですが、これもメタ小説になっています。
コンセプトの発想自体は古くからあるのですが、今回のようなオチはおもしろいですね。
ちょっと世相を反映して社会風刺が加味されているところなんかも評価しています。
星新一の『未来いそっぷ』を彷彿させていて、個人的に好きな作品です。

『叫び』は5月期にホラーが多いなかで、ストレートなホラー作品のふりをした
コメディ作品ということで、意表を突いた感じがすごく印象的でした。
惜しむらくは会話だらけになってしまっているので、もう少し文章を工夫してもらえると
もっとわかりやすくなって上を狙えたと思いますので、今後もがんばってください。

《総評》
夏でもないのにホラー作品が本当に多い月でした。
そういえば冬はやたらと人が死ぬ、殺される話が多かったりということもありましたね。
季節によって投稿者の傾向が気持ち的に変化しているのでしょうか?
とっても興味深いテーマなので、今後も年間を通して注意してみたいですね。
すぐに6月月間賞に年間大賞の選考にも追われていますが、本当に選考が難しいので
日数がかかってしまうので、遅れがちなのは大目に見てやってください。
短い文章を書く練習は、そればっかりやっていてもしょうがないのですが
身につけたものは、ぜったいに長編にも活きてきます。
たとえば無駄なシーンや会話をぐだぐだ書いてしまうことがなくなり
自然と作品がひきしまって格好よく、しかも読みやすくなったりとかですね。
今後もみなさんの作品に期待していますので、よろしくお願いいたします!


執念 古都たん著

 彼女が亡くなった。
 飛び降りだったそうだ。
 遺書は無かったという。
 だった、と言うのは彼女の死を人伝に聞いた為である。
 私は彼女の遺体を見たくなかったのだ。
 彼女が居なくなった事をどうしても認めたくなかった。

 気付いてやれなかった自分を何度も責め続けた。
 仕事も上手くいっていた様だし、家族や友人関係でトラブルも無い…とも言えないか。
 彼女の事なら誰よりも、何でも知っていると自信があった。
 しかし現に彼女は私に黙って死んだ。
 もしかしたら私の知らないところで何かあったのかも。
 彼女は優しすぎる性格だから、きっと私に心配をかけたくなかったのだろう。
 死んでしまうくらい辛かったんだ。
 私がもっと早く気付いてやれていればこんな事態にはならなかったのに。
 幾ら後悔しても全て後の祭りだった。

 訃報の三日後くらいか、変な事が身の回りで起こるようになった。
 物が別の場所に移動していたり無くなっていたりと本当に些細な事だが、私は絶対に彼女だと確信した。
 間違いない。
 彼女は死んでからも、私の側にいてくれているのだ。
 そう思うと嬉しくなった。と、同時にやる気が出た。
 また彼女と話したい。
 気付いてやれなかった事を謝りたい。
 どうして私を置いて死んでしまったのか、聞きたい。
 そして、彼女を苦しめた奴を、知りたい。

 それからの私は実体の無い彼女とコンタクトをとろうと試みていた。
 馬鹿馬鹿しいと思えるような後霊術や死者を蘇らせる魔術なんかにも手を出してみたが、成果は一つとして得られなかった。

 行き詰まった私は乗り気ではなかったものの、藁にでもすがる思いでその道の専門家に頼むことにした。
 イタコ、という後霊術専門の職業らしい。
 これでようやく彼女と話せるのか。

 ・ ・ ・

 初老のイタコは小さな体をカタカタと震わせ、俯き加減で小さく呟いた。

「―貴方は、誰?」

 あぁ、なんだ。
 こいつもインチキか。


秘密基地 雪希著

 鬱蒼とした葦の密林を抜けると、そこは楽園だった。
 ざわわ、と青嵐が駆けていく。
 時折そよ吹く薫風が鼻腔を擽る。
 綺羅綺羅と万華鏡の様な水鏡の煌めきに誘惑され河面を覗く。
 小魚やザリガニが驚き慌てて身を隠した。
 そんな水面下の騒動など意にも介せず水黽がすいすいと滑り行く。
 遠い日の宝物に出会ったような感覚に懐かしさを覚え瞳を閉じ深呼吸。
 肺が、むっとした青々しい草いきれに満たされた。
 背の高い葦の森の中心にぽっかりと空いたこの場所は、世界から隔離された秘密の箱庭のように静謐で時間の流れがゆったりと流れているように思えた。

「おっさん、何しとん」
 惚けていた私は甲高い声で現実に引き戻された。
 おっさんと言う言葉に憤然としながら振り返る。
 そこにはよれたTシャツに短パンを履いた少年がいた。
「ここはわいの秘密基地や、出てってや」
 そう言われてよくよく周囲を見回してみる。
 薄汚れた虫網、穴の空いたバケツ、枝に凧糸を結んだ手製の釣り竿。
 来た時には気にも止めなかったが、なるほど子供の宝物が溢れていた。
得心がいき顔が綻ぶ。
 私も昔は秘密基地を拵えたものだ。
 潮風にざわつく松林を抜けて、浜辺の端に鎮座していた灰色の城壁。
 テトラポットの隙間を縫い、秘密の場所を求めて探検したのを覚えている。
 しかし残念な事に私は大人になった。
 心を鬼にしなければならない。
「河川工事で危険な場所になるから此処で遊ぶのは止めて欲しいんだ」
「嫌や、わいが先に見つけたんや!」
 少年には残酷な正論は感情論の即答で打ち消された。
 私は考えた。
 少年を追い払っても、男の帰巣本能がこの場所へと戻らせるだろう。
 それではただのイタチごっこだ。
 そう言えば私の時はどうして諦めたのだろうか?
 そう、確か
「『秘密』基地は誰かに知られた時点で秘密じゃなくなるんじゃないかい?」
 こうだった。
 悔しそうに私を睨みながら少年は駆けて行く。
 新しい基地を求めて去るその背を、私はいつまでも見送った。

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第1回日昌晶掌篇文学賞 4月期選考結果発表

4月期の応募作品の総数は38作品でした。
今回も力作が揃っていたので、選考が難しかったのですが発表いたします。

【金賞(4月期月間賞)】 (副賞:760円ギフト券)
『怪我』 ららこ

他の作品にはあまりみられない静謐な死を叙情的に描けているのを高く評価しました。
死の影をテーマにしながらも透明感のある物語は小川洋子作品を彷彿としています。
怪我や血の扱い方というか物語への織りこみかたもいいですね。
文字制限の関係で最後ちょっと黒猫の死に余韻をもたせられず
やや急ぎ足で唐突になってしまっているところがひっかかりましたが
作品をとおしての評価を下げるまでもないでしょう。

【銀賞】
『日常』 雷都

今回も読む者の創造力をふくらませてくれる一行小説となっています。
雷都さんはコツをつかんだ感じでしょうね。
この感覚を掌篇だけでなく中篇、短篇へとつなげていってほしいと思います。
ちょっとライトノベルとは違う方向性なのですが、いけるんじゃないでしょうか。
もうひとつの応募作だった『続・七福神』もよかったのですが
こちらは反対に掌篇や短編ではなくてライトノベルの長編向き設定でしたね。

【佳作】
『レンズ越しの世界』 金色のミヤ
『坂道をカケル』 森野参太
『ソファ』 回遊魚
『愛猫家と猫娘』 add.
『君と見た桜』 2@
『群集。駅前』 01仁杉
『日常』 ざぼん(仮)
『散歩』 くろま
『たくさんのはじめて』 4E
『友達が欲しかった』 蘭丸
(以上10作品、投稿順)

『レンズ越しの世界』は眼鏡というガジェットの選び方と描写がよかったです。
ただしストーリー的には眼鏡である必要がないところが惜しかったですね。

『坂道をカケル』はそれほど奇をてらったストーリーではないですがテンポがよく
とても読みやすかったです。オチをもう一段加えるともっとよかったかもしれません。

『ソファ』はストーリーはないに等しいのですが、なんでもないことを書くという
作者の姿勢を評価してみました。極めれば吉本ばななの『キッチン』にもなれるでしょう。

『愛猫家と猫娘』はコミカルでいて、教師視点から描くおもしろさがありました。
惜しむらくはオチがありきたりで少々陳腐な読後感になってしまったところです。

『君と見た桜』は回想と風景と写真の二重露光のように重ね合わせて
描けているいるところが佳作ですね。

『群集。駅前』は実験的手法ながら現代のツイッター的な断片的情報もあって
うまく成立させていました。シニカルなところも高評価です。

『日常』はちょっと作家の内輪ネタっぽいところはありますが、
作家の悲喜こもごもを短い文章で表現しえていました。ちょっと詩に近いですが。

『散歩』は日常の一コマを描き、読者を元気にしてくれるような雰囲気を評価しました。
どうしても暗いトーンの作品が多いと、こういう爽やかな作品は清涼剤のようもでもありました。

『たくさんのはじめて』は願望的妄想がストレートなところを評価しました。
こんなことが起きるわけがないとはわかっていても期待してしまう男心をよくつかんでますね。

『友達が欲しかった』は結構多い死に神モノでもアレンジ的に異色でしたね。
ややテーマがぼやけてしまったところがなければもっと上にいったでしょう。


《総評》
新年度ということで、こちらのほうでも初投稿者の健闘が目につきましたし
常連投稿者の底堅さも垣間見れたりして、なかなか興味深かったです。
他の投稿者との相乗効果で全体のレベルは右肩あがりでよくなってきています。
これからも頑張ってほしいと思っていますので、よろしくお願いします。

評価するのも悩んでしまうのですが、ここに来て特にどうしようかと思っているのが
いわゆる小説というよりも詩に近い作品なんですね。
たしかに掌篇小説の体裁というものが、きっちりしているわけでもなく
それでいて散文詩というのもありますから境界はすごく曖昧となっています。
なので、ちょっと詩的であっても、それを理由に評価しないようと思っています。
ただし詩的な作品の中には物語性が薄く、テーマも漠然としてしまっていて
詩としても評価しきれないものがあるので、そこだけは注意してほしいですね。
美しい文章を抽象的に書くのではなく、伝えたいことをわかるように書くことに
意識をそそいで、これからも執筆してもらえたらと思っています。


怪我 ららこ著

 私は怪我が嫌いだった。
 包丁で手を切る痛みも、針で指を突き刺す痛みも、転倒して膝を擦り剥く痛みも、全部。

 ある夏の日のこと。台所に立っていた私は、ふとした拍子に包丁の先で指先を数センチ切り裂いてしまった。
 左右に割れた皮膚の間から赤い液体が滲み、小さな玉を作ってから皮膚へ伝い落ちていく。痛みがじんわりと指先を覆い、私の涙腺を強く刺激した。
 とにかく流れ落ちる血を止めたくて、私は手にした布で指先を強く圧迫していた。痛みはなかなか引かないし、布は赤く染まっていくばかりだった。
「痛いの?」
 不意に右隣から幼い声が響いた。
 思わず振り向く。その先にあったお皿や箸が洗いっぱなしになっている流し台の上に、声の主である黒猫は優雅に座り込み、しなやかな尾をゆらゆらと左右に揺らしていた。
「痛いの?」
 抑揚のない声が響く。指先の痛みに耐えきなかった私は黒猫に向かって叫ぶように訴えた。
「痛いよ、痛い。ねえ、モモ、私の怪我を治してよ」
 指を流れ落ちる血の量が減っていたことに、その時の私は気付かなかった。モモに対して憤るばかりで、怪我が治す魔法なんて現実にないことを思いだせなかった。
 しん、と、台所に静寂が満ちる。
 私はモモの次の言葉を待っていた。
「痛いの?」
 投げつけられたのは変わらぬ一言。
 そして私は、指先の痛みが薄らいでいることに気付く。


 結局、怪我を治したのは時の流れだった。魔法も包帯も必要なかったのだろう。
 私は頭上を覆う夕暮れに目を向けてから、次に足元へ視線を落とした。モモと書かれた小さな墓を撫でた私の皮膚を、すぐ側に生えていた野草の葉が薄く切り裂いた。
 思わず手を引っ込め、傷口を押さえる。ずきり、と走った痛みに、私は思わず頬を緩めた。
 あの日、モモは私に問いかけた。
「痛いのは一瞬なのに、どうして泣くの?」と。

 もう一度、空を仰ぐ。
 黄昏の色はどこまでも遠くまで続いていた。


日常 雷都著

「なにか珍しいことないかなぁ」と、今日も空飛ぶ豚に相談する。


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第1回日昌晶掌篇文学賞 3月期選考結果発表

【金賞(3月期月間賞)】(副賞:740円ギフト券)
『黒い桜』『貝殻』 雷都

今回は甲乙つけがたい作品が並んだのですが、2作合わせ技ということで雷都さんに決定しました。
まず『黒い桜』なんですが一行目の出だしにやられてしまいました。
「桜の木の下には、梶井基次郎の死体が埋まってるんだって!」
こんなことが考えつくセンスには脱帽です。引用ではなくて本人が考えついたのであれば本物でしょう。
実際に前回2月期も銀賞を受賞しているので、実力的に優れていると認めないわけにはいきません。
てっきり梶井基次郎つながりで桜の木の下から檸檬(レモン)でも出てくるのかとも思いましたが
いい意味で裏切られて、きれいにまとまっていたのも印象的でしたね。

また『貝殻』は1行小説ですが、文句なしに秀逸です。詩的な情緒にあふれた繊細な小品でした。
今後の作品を期待しないわけにはいかないですね。

【銀賞】
『1.7秒』 add.

はっきりいって、ストーリー的には内容なんてほとんどないんですね。
それだけに文章表現が問われるタイプの作品ですが、独特のいいまわしに作者のセンスのよさを感じました。
やや技巧的に走りすぎ、くどく感じられるきらいもありますが今後を期待させてくれました。
この調子で今後はもっとストーリー性のある作品や奇想天外な設定の作品なども期待しています。

【佳作】
『戦闘員哀歌』 葉桜
『スプーンとぼく』 雪希
『出会いと別れは計画的に』 ドリーマー☆ユウ
『桜』2@
『サヨウナラの涙』4E
『毒リンゴ、コロン』 ミカ
『逃げる男』 01仁杉
(以上7作品、投稿順)

『戦闘員哀歌』は個人的に好きなジャンルですが、着目点はいいと思います。
この作品発表後、最近の仮面ライダーでも戦闘員視点のエピソードもありましたし。
もう少し文章に気を遣ってもらえると、より上位に食いこんでくると思います。

『スプーンとぼく』は題材的にはおもしいですよね。
ちょっと菊池寛の『恩讐の彼方に』を彷彿させるのかと思いきや、エロ方面なんですよね。
しかし最後の出世物語はやや蛇足で、最後までエロ青春路線だったほうが締まりがよかったと思います。

『出会いと別れは計画的に』もまた恋愛裏事情という視点にブラックユーモアのある作品でした。
ただ惜しむらくは「毒」成分がたりなかったので、すっと読めてしまうんですね。
もう少し読者を揺さぶるような、今回でいうと不快感をもたせる箇所があると、より引き立ったと思います。

『桜』は季節ものということもあるし、ちょっと変わった似非アウトローきどりな青春ものというのを
積極的に評価してみました。20年前まではこんなラブコメマンガも多かったですが
ここ最近では見られなくなってきたので、ある意味、リバイバルで狙い目かもしれませんね。

『サヨウナラの涙』は春だけに青春ものが多い中で、これもそのひとつです。
この場合は切り口を少し変えて、プレイパック風な仕掛になっているのと
設定が少女漫画的ではありますが、いつの時代にも女性の憧れる原風景となっているので
そこを要点をおさえて描かれている点を評価しました。

『毒リンゴ、コロン』は星新一の『未来いそっぷ』の一編を彷彿とさせるシニカルなユーモア作品で
屍体愛好者(ネクロフィリア)な王子様という設定は他でも見かけたことはあるのですが
あわせて歴史は巡るというかたちで終わらせるというのは、素直におもしろいと思いました。
銀賞候補でしたが、残念ながらいま一歩およばなかったのが惜しいところです。

『逃げる男』もまた銀賞候補でした。とてもおもしろい設定でいいとは思うのですが一点だけ、
物語のストーリーとオチがちょっとちぐはぐになってしまったかなという印象を受けました。
それは主人公の内面的な気持ちをもう少し丁寧に描いてあげると改善されたと思います。

《総評》
3月期はいつもとは反対に金賞銀賞候補には恵まれたのですが、佳作候補は意外と少なかったですね。
選考者の私の目が肥えてきてしまっているというのもあるかもしれませんが、
ジャンルやストーリーは異なってもスタイルが同じような作品がかなり増えてきました。
具体的には、叙述トリックの話ですね。最後の部分で主人公の正体がわかって
ストーリーの全体像がわかるみたいなスタイルの作品です。
悪くはないのですが、類似傾向の作品が増えると、どうしても埋もれがちになってしまい
特に出来の良いものしか目に止まらなくなってしまうので、佳作にしにくいところもありますのでご注意を。

そして4月、5月、6月と残すところ3ヶ月のラストスパートです。
最近は40作弱くらいの作品が安定してエントリーされていますので、100作品くらいでしょうか。
この中からグランプリが出してやるくらいの意気込みで、頑張ってほしいと思います!


黒い桜 雷都著

「桜の木の下には、梶井基次郎の死体が埋まってるんだって!」
 妹が僕の腕を引っ張りながら、元気よく言った。
「探しに行こうよ。モトジローの死体!」
 間違いを正す余裕もなく、僕は引っ張られていく。


 満開の桜並木を走った。数ヶ月前の災害で、花見は自粛ムードになっている。
 だが妹は我が道を進んでいく。
 気がつくと、山の奥へと侵入していた。
 草木がほとんど生えていない。
 災害によって荒れ果てた大地。
 振り返ると〈Keep out〉のテープが見える。
「帰ろうよ。桜なんてどこにも……」
 言いかけた僕の口が、止まった。
 生えていたのだ。
 真っ黒の、桜の木が。
 呆然とする僕に反して、妹は嬉しそうだ。
「これは死体が埋まっている色だね」
 はしゃぎながら、黒い桜の木の下を掘りだした。


「ほら、なんか出てきた!」
 僕は急いで駆け寄る。まさか、本当に死体か?
 しかし、妹が掘り出したのは数個のカプセルだった。
 中には戦隊シリーズのカードが入っている。
 どうやら、これはタイムカプセルらしい。
 妹はがっかりした様子だ。
 でも――。
「おかしい」
 僕はカードを見る。記載されている戦隊は、まだ未放送のものだったのだ。
 試しに他のカプセルも開けてみた。
 スポーツ新聞の切り抜き。
 ゲームソフトの箱。
 写真。
 どれも、未来の日付が記されていた。
「どういうこと?」
「これはきっと……未来からきたタイムカプセルだ!」


 僕たちはしばらく、黒い桜を見上げていた。
 妹を振り返り、告げた。
「梶井基次郎は死体が埋まっているといった。その真意は、精神の均衡のためなんだ。綺麗すぎるものに、グロテクスなものを対置することで、平静を保っていた」
 なるほどといったように、妹はうなずく。
「今回は逆だ。これだけ、禍々しい桜が咲き誇っている。きっとこの下には、これから、美しい思い出が、たくさん埋められていくはずだよ」
「うん。そうだね」
 僕たちはカプセルを埋めなおした。
 柔らかい土の上に、黒い花びらが舞い落ちた。


貝殻 雷都著

巻貝に耳を添えると、「もう……ここに海はないんです」と聞こえた。


1.7秒 add.

 僕が笑子に触れたいと感じるとき、1.7秒後の彼女が僕を拒まないという予見がある。
 〈放課後〉という弛緩した響きが、僕と笑子を言葉以上の理解で結び、誤差3文字未満の精度でそれを叶えてくれるのだ。
「なあに、山家くん」
 笑子は振り向いて言った。僕の手が置かれた彼女の肩は、とても細くなだらかだ。
 まだ彼女と手をつなぐことすら適わない僕だけれど、それよりも遥かに唇に近い肩に触れることは便宜上において比較的容易で、ほんの少し指を這わせればその憧れに触れてしまえる。
 実に曖昧な距離を隔てている。
 しかし、心ない僕の理性は、その距離感を愛しているようで……。
「ご、ごめん……なんでもないんだ」
 笑子は訝しげに首を傾げると、「そう」と一言つぶやいて、卓上にこぼれたオレンヂジュースのように廊下に染みわたる夕日のなかを抜けていった。
 放課後の学校は――僕にとって、それは橙色の魔性なのだけれど――彼女の姿をよりいっそう美しく装飾する。
 照らしだされた笑子の笑顔は、その名が体現するようにとても美しい。
 だから、僕はせめて妄想のなかで、思いつく限りの方法を用いて彼女を陵辱した。
 正体不明の焦燥と、有形に限りなく近い情欲にまみれ、比類なき至高の笑顔を捻じ曲げた。
 知らないことが許せなかった。あの笑顔が仮面であることを恐れた。すべてを開き、解体し、レポートを手に入れたかった。まるで、所有欲を堰き止める箍が決壊したかのように体内で氾濫し、それはやがて痛みに変換されたのだ。
 だから、僕は――よしんば笑子との隔たりが明確な巨壁となって相対することになっても――現実に彼女を襲いたいと思うかもしれない。
 そう、“かもしれない”。
 かもしれない、だ。“まだ”、そう思ったわけではない。
 まだだ。……しかし――。
 僕が笑子を壊してしまいたいと感じるまで、その間――。
 ――1.7秒。
 それさえ守れば、彼女は僕を拒まない。

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