L'Anovelién

UNO=日昌晶

Author:UNO=日昌晶
日昌晶(ひよしあきら)
小説家にして作家デビュー請負人、ストーリーコミュニケーションコンサルタント
原稿執筆や講演・講義、オタクビジネス・マーケティングのコンサルティングまで幅広く活躍中!
 unokyokai@gmail.com

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ライトノベル創作教室ラノベりあん 中二病でも書けるライトノベル教室♪

小説の楽しい書き方講座ブログ 毎週開催の創作塾と連動中!

第1回日昌晶掌篇文学賞 2月期選考結果発表

【金賞(2月期月間賞)】(副賞:660円ギフト券)
『四分間の幸せ』 チェシャ猫 

謎解きのような作品です。
情けない話ですが、私は謎を理解するまで二度読みかえさなければいけませんでした。
とはいえ、日常に起こりうるような機微がとてもよく表現されていて
なんでもないことがちょっとしたミステリー仕立てになっているところを評価させてもらいました。


【銀賞】
『円周率な心』 雷都

バレンタインのネタですね。選考発表は3月なので、
できれば1月に投稿してもらえるとタイムリーなのですが、それはいいでしょう。
これまでのバレンタインデートはちょっとひと味ちがうところと
円周率との関連性がいい感じにまとまっていたので、今回の銀賞となりました。
これにヒネリがあると金賞でもおかしくなかったと思います。


【佳作上席】
『美咲』 しょう
『シュガー』 キ緑
『無償の愛、有償の僕』 ミカ
『ちーちゃんの階段』 ショウ
『消えた〝アレ〟』 おっとー

【佳作】
『死にたがりと、生きたがり』 夜桜三〇八
『かたおもい』 りっか
『最強は誰?』 ドリーマー☆ユウ
『兄と呼べた日』 4E
『堕落』 しんぢ
『卒業』 雷都
『舟の上で』 ショウ
『彼我』 蘭丸
(以上13作品、投稿順)

今回は銀賞になってもおかしくない作品が多かったので、特別に佳作は佳作でも上席を用意しました。
あと一工夫で金賞銀賞も現実的だっただけに、次回はもっと構成や演出を工夫してください。
『美咲』はありきたりの叙述トリックですが、オチもあって、よく書けていました。
『シュガー』は独特の文体で雰囲気がよくでている作品です。
ただ雰囲気で読ませる作品なので、より一般的な読者の共感が得られるような内容がよかったかもしれません。
『無償の愛、有償の僕』はほのぼのとした犬視点ながらホラーなところが好印象の作品でした。
『ちーちゃんの階段』は、ほほえましい出来事が素直に書けていて好感が持てました。
ただしかなり昔の歌に元ネタを求めているので、最近の若い人はわかるんでしょうか?
『消えた〝アレ〟』はいいですね。上席ではいちばん銀賞に近い作品でした。
物書きの本質をよくとらえていたと思います。一行小説としては会心の作でしょう。

これ以外の佳作8作品については、金賞、銀賞または上席まで届かなかった理由はひとつなんですね。
なんとなくネタもいいし、雰囲気もよさそうなんですが、作者の個性があまり感じられませんでした。
どうしても800字以内でまとめようとして、いい子になってしまっているんですね。
もっと悪い子になって挑戦的な個性を剥き出しにした表現やストーリーをめざしてください。


《総評》
12月期、1月期とちょっと酷評してしまったのですが、ハッパをかけた甲斐があって
2月期の作品はほとんどの作品が総合的に高いレベルだったので選考に苦労しました。
中でも2月期の金賞はより掌篇小説やショートショートの王道に近い作品が選ばれたかと思います。
これ以外にも意欲的な作品をぜひ読んでみたいので、どんどん挑戦してください。
挑戦といっても技巧的な方向に走らないで、ネタの拾い方や視点で差別化をはかってほしいと思っています。
3月期の選考も私が悩み抜くくらい、おもしろい作品をお待ちしています!

<受賞作品全文掲載>
四分間の幸せ チェシャ猫

 ある所に、〝男〟がいました。
 その男は、いつも通勤するときに環状線を使います。
 その男の使う駅は、始発が多いために、いつも座ることができます。
 その男は、今日も座りながら通勤しました。
 その男は、ただのしがないサラリーマン、彼女もいないし、最近は趣味である写真も撮れていません。
 しかしその男の心は、充実していました。
 何故なら、その男は、恋をしているからです。
 その男が、降りる駅の一つ前に乗ってくる女性が、恋心を抱いている人です。
 その男は、その女性が、愛おしくてたまりません。
 その男が、どの席に座っていても、その女性は、その男の前に立ちます。
 その男は、最初気づきませんでしたが、その事に気づけばいつの間にか好きになっていました。
 その男は、その女性のどこか儚げな表情と、朝日の差し込む風景を眺める姿を見るのが好きでした。
 その男は、次の駅に着くまでの四分間の幸せをかみしめます。
 そしてその男の、目的の駅に着くとその男は席を立ち、その女性の横を通り過ぎ電車を降ります。
 その男は、会社に行くまでの時間、その女性に何と声をかけようか、と考えながらまた、幸せな気分に浸ります。
 この男が、声を掛けない限り幸せは続きます。
 どう言うことかって? 
 それは、少し考えればわかりますよ。


円周率な心 雷都著

 バレンタインデー。僕は生まれてはじめて、女の子からハート型のチョコをもらった。
「ホワイトデーには、返事ちょうだいね」
 幼馴染の遠藤がいった。
 しかし、これには困った。
 僕には他に好きな子がいたのだ。
 まさかのモテ期到来で、本命の和田さんからも、チョコをもらえるかもしれない。そんな期待もあったが、収穫はひとつだけだった。
 それどころか。なんと和田さんは、他の男にチョコをあげたというのだ。
 イケメンの大島に。
 やっぱり顔がすべてなのかと、ヤケになっていたら。帰りがけ、和田さんに話しかけられた。
「な、なんだよ?」
 自分でも、声が尖っているのがわかった。そんな器の小ささに涙が出そうになった。
 彼女も、僕の様子に気づいたのだろう。
「なんでもないわ」
 そういって、去った。


 家に帰ると、テレビでタレントが謎かけをしていた。
「バレンタインとかけまして、円周率と解く。その心は……、3.14で答えが出ます!」
 スタジオの反応は好評だった。
 でも。僕は思う。
『その心は……3.14では割り切れない』
 おもしろくないけど、数学的には、僕の方が正しい。


 それぞれの気持ちが交錯したまま、ホワイトデーを迎えた。
「ねえ、早く」
 遠藤が、お返しを催促してくる。
「ちょ、ちょっと待って」
 僕の気持ちは煮え切らなかった。
 そのとき、僕たちの隣を、がっかりした表情の大島が通りすがった。
「なんてことだ! 和田さんは、友達の代理だったなんて。俺はてっきり……」
 独り言をわめきながら、彼は過ぎ去っていく。どうやら、和田さんがあげたチョコは、本命ではなかったらしい。
 それを知った僕は、遠藤を振り返っていう。
「ごめん。僕たちはずっと、恋人未満でいよう」
「は、はあ?」
 僕は和田さんのことが諦められなかった。
 まだ、チャンスはある。
 気がつくと、僕は彼女を探して走りだしていた。
 背後から遠藤の罵声が聞こえた。

 やっぱりな、と僕は思う。バレンタインの答えは、3.14では割り切れない。

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第1回日昌晶掌篇文学賞 1月期選考結果発表

選考が難航しまして、こんなに発表が遅れてしまいましたが2011年になってはじめてとなる
1月期の結果発表となります。今回のエントリーは40作品でした。

【金賞(1月期月間賞)】(副賞:800円ギフト券)
『太刀魚の塩焼き』 雷鳥

この作品はライトノベル作家志望コミュで募集しているとは思えないような
郷愁を誘う情感ある作品として、他の作品に対しても異彩を放っていました。
作品自体、すごくよくまとまっていて質の高い掌篇小説になっています。
お酒のメーカーなんかの新聞広告枠でたまに掲載されそうな趣がありますよね。
完成度が高いので特に言うこともないのですが、作中の私と「親父」の思い出を添えると
より共感性が高まって、昔日の郷愁だけでなく太刀魚をモチーフとした親子の情も描ききれたと思います。


【銀賞】
『汚点』 ラン太郎

読後感が悪い。というか読んでいる途中から気持ち悪い……
これは作者の思惑どおりの効果がすごくよく出ていると思って今回は銀賞とさせてもらいました。
しかし、やはり効果的には一発ネタなので、他の人は二匹目のドジョウを狙って
同じようなタイプの作品はやめてください。そんなのばかり読みたくないですから。
この作品についていえば、淡々とした描写が読者の脳内で具現化して恐怖を醸造するんですね。
無垢の恐怖というのは乙一作品にも多く見うけられるタイプなのですが、
この作品では800字以内という制約のなかロケットスタートで見事に描ききっています。
こういう書き方は作者に技量がないと書けないんですよね。


【佳作】
『あるカフェの幽霊』 ゆすら
『昔話』 葱トロ巻き
『悪魔でございます』 ショウ
『丑三つ時の科学な呪い』 黒アリ
『未完成』 樋浦ユースケ
(以上5作品、投稿順)

今回の佳作は回数を経て自然と審査基準もあがってきたので、5本となりました。
『あるカフェの幽霊』は大ヒット映画『シックスセンス』と同じオチなので
肝心のオチがちょっと予想しやすかったのが残念でしたね。
もう一ひねりしてもらえると、もっとよくなったと思います。
『昔話』もやはりオチに難があって、いまひとつオチに説得力が欠けていました。
どうして先の人類があのような異形の姿になったのかの理由説明だけでなく、
あの姿のものたちが今に見せる人類らしさの名残りを描くのが昔話のセオリーです。
そこを書き加えて欲しかったですね。
『悪魔でございます』もです。これは序盤が非常に引きこまれる展開と文章なのに
オチがありきたりすぎて肩すかしをくってしまうんですね。
オチで勝負するタイプの作品はやはり最後の落としどころで評価が一転するものです。
『丑三つ時の科学な呪い』はオチはいいんですよ。
しかし読後の余韻を意識してしまったために痛快さが半減してしまいました。
この手の作品は落語のようにバッサリぶった切って終わらせたほうが効果的であり
つまるところの読後感もよくなります。あとオチが唐突になるので伏線もほしかったですね。
『未完成』は情感に訴える作品でストーリーそのものはいいと思うのですが
難をいえばもう少し文章を工夫してほしかったですね。
もっと叙情的にするか、あるいは素朴なものにするか、いろいろ方向性はあると思うのですが
今回の文章はどうも中途半端で印象が薄く、それだけに読者が引きこまれないんですね。
そこを注意して書くと格段によくなると思います。


《総評》
なんと2月発表だというのに、バレンタインネタがありませんでした。
春から秋まで何作もあったのに、なぜかシーズン本番になった途端になくなってしまうのは
なんだか奇妙な感じがしましたが、やはり月1で発表していますので、
1ヶ月前倒ししての季節感を意識した作品というのはほしいところですし、
前々から評価も少しおまけするとは言ってるんですけどね……うまいこといきません。
で、今回は佳作が5作品とかなり減っています。審査基準が厳しくなっているのもありますが
全体的にあとちょっとの工夫やひらめきがほしい作品が多いんですよね。
ここまで続けてきたので、さすがに掌篇小説としてこれはいかがなものかと思ってしまうような作品は
もうありませんので、投稿作品全体のレベルは初期に比べてかなり上達しています。
でも選考を予想してウケがよさそうなモチーフを選んで書いているのかどうかわかりませんが
ちょっとどんぐりの背比べ的になってしまい、飛び抜けた作品が少なくなってきました。
もっと初期のころのような冒険的作品もぜひお待ちしています!

もうお忘れかもしれませんが、月間賞をとった作品の中から、さらに年間大賞を選出します。
みなさんは今までの受賞作品を読みかえしてみて、どの作品が有力候補かなんてことを考えながら
読みかえしてみるのもたのしいと思いますよ。


<受賞作品全文掲載>
太刀魚の塩焼き 雷鳥著

 明日の晩は何が食べたいと尋ねられたので、ハンバーグやエビフライと子供が好きなメニューを連ねてリクエストを送って見るものの、翌日の晩御飯はみそ汁と太刀魚の塩焼きだった時の残念感はどう表現すればいいものだろうか。

 楽しみにしてたのに……と怒って告げると、スーパーで安かったのよ、なんてさも当然と言った表情で返してくる母に、返す言葉など無く、銀色に照らされた身に箸を渋々通していた日々を思い出す。
 故郷瀬戸内の海では頻繁に太刀魚が取れるので、非常に安価で買えると知ったのは後の事だ。当時少年の身にすれば、晩御飯が魚だった時の残念感と言えば筆舌に語り尽くせないほどのものになる。
 刺身ならいい。だが鰈の煮付けや太刀魚の塩焼きといった淡白な味付けの一品が食卓に上ったともなれば、その晩の素っ気なさと言ったらどうだろうか。
 
 だが年を重ねていく内に味覚嗜好が変わっていくのか、不思議と子供の頃、あれほど嫌いだった魚を食べたくなってくるのだ。
 故郷から離れ、海の見えない山の土地に居を構えた今。
 ふと、あの日の頃が懐かしく思え、太刀魚の塩焼きを作ってみた。
 銀色に照らされた身を箸で一口摘まんでみる。
 ほのかな塩味と淡白な身の味わい。
 この味を懐かしく思え、上手いと感じた時。
 年を取ったものだと、感じるのだ。
 あの瀬戸内の海が懐かしく思えてきた。
 隣に居た息子が食卓に出された太刀魚の塩焼きを見て、あの日の自分を語っている。
 彼もまた年を取った時、同じ感情で太刀魚の身を摘まむのだろうか。
 そう考えると、なにやら微笑ましく思えてきた。
 親父もあの日の食卓で同じことを考えていたのだろうか。
 今度、電話で聞いてみる事にしよう……。


汚点 ラン太郎著

 俺は、小さな汚れを大きく大きく広げていくのが大好きだ。
 汚点を根気よくいじくり回すのが気持ちがいい。快感すら覚える。
 例えば絨毯にこぼれた一滴のインク。
 はじめは小さな点でしかないその汚れも、熱心にこすればやがてぼんやりと黒い領域を広げていく。
 じんわり、ねちねち、綺麗だった絨毯はどことなく陰気な影を帯びる。薄ぼんやりとした毛糸玉。ああ、なんて美し――もとい汚いんだろう。
 おや、その絨毯を犬が踏んづけてしまったぞ。
 犬の足が汚れた。肉球が黒ずんだ。大変だゴシゴシせねば。
 だが犬の足はいくら擦ってもあんまり見た目は変わらない。汚れが広がるどころか、むしろ綺麗になった気さえする。
 これではつまらない。ガッカリだ。
 と、思って犬の顔を見てみたら、なんと目の周りに目ヤニがいっぱいこびりついているではないか。
なんてこった。これは汚い。インクのシミなんて問題にもならない汚点だ。
 ゴシゴシしてやらねば!
 俺は犬の顔に親指を押し当て、力を込めて目の周りをゴシゴシした。
 ゴシゴシ。ゴシゴシ。
 ゴシゴシしてると、やがてどこからともなく血が吹き出てきた。眼球がつぶれたか? 犬は鳴いてる。喜んでいるのかもしれない。このマゾめ。俺も快感だ。
 ああ、擦れば擦るほどたくさん血が出てくる。傷口を広げていくうちに犬はいつの間にか鳴くのを辞めていた。
 もはや「傷口」というよりもちょっとした穴だ。俺は穴を掘っている。薄汚れた不潔な穴。
 掘っても掘っても溢れてくるねっとりとした汚れ。血。肉。その他、汚い。汚い。
 あああ、楽しい楽しい。これはやめられない――。

 実はこんな俺にも彼女がいる。来るモノ拒まず、去るモノ追わずが俺のモットーだ。
 天然ボケの可愛らしい彼女で、今日は二人で初デート。
 お好み焼き屋にごはんを食べに来ていた。
 適当なおしゃべりで盛り上がり、彼女は楽しそうにニッコリ笑う。
 その歯には青のりが汚らしく張り付いていて――
 俺はなんだかゾクゾクした。

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第1回日昌晶掌篇文学賞 12月期選考結果発表

2010年最後となる12月期の発表となります。
今回は先月と同じく39作品の応募がありました。

【金賞(12月期月間賞)】
該当作品なし

残念ながら今月の受賞者は該当者なしとさせてもらいました。


【銀賞】
『ななちゃんのにっき』 金色のミヤ

賞のスタート直後であれば金賞も考えたのですが、毎月投稿作品のレベルがあがってきていたこともあり
惜しいのですが、ここ数ヶ月の受賞作品と比較すると銀賞が妥当だと判断させてもらいました。
拙い日記によって語られる惨劇というミステリーは、800字以内と短いながらよくまとまっています。
しかしながら、やや使い古された古典的手法でもあるので、展開が容易に想像できてしまうため
ここでもう一工夫あってくれれば、まちがいなく金賞をということになっただけに、
今回は掌篇小説の難しさを改めて痛感させられました。


【佳作】
『勇者のむすこ』 ギサ/ダンテス
『愛玩人種』 雷鳥
『望遠鏡』 ゼミ長 
『電話恐怖症』 おっとー
『足喰い虫も好き好き』 ミカ
『貴方は今、何処にいますか』  玲レイ
『三百六十四夜の願い』 なつめ≒カタリヤ
『ベッド』 ジャイ
『ダブルバインド 彼女の苦悩』 飄凛然
(以上9作品、投稿順)

『勇者のむすこ』は、クレヨンしんちゃんとはまた少しちがったかたちでの
大人びた小生意気な子供をうまく表現できていました。
『愛玩人種』は『家畜人ヤプー』を彷彿とさせる着想で、おもしろく仕上がっていました。
『望遠鏡』は結末が明示されず二つの意味で捕らえられるところは面白いのですが
もう少し序盤でもっと伏線を張ってもらえると、読後感ももっとよくなったでしょう。
『電話恐怖症』も着想はいいのですが、主人公の着信に対する恐怖をもっと巧妙に描けていたら
作品全体の印象もガラッとかわっていたかと思います。
『足喰い虫も好き好き』 は着想もテンポもよかったので銀賞候補だったのですが
フリがよかっただけに、オチが若干弱いのが目に付いてしまったのが惜しかったです。
『貴方は今、何処にいますか』はきれいにまとまっていて情緒がよくあらわれていました。
『三百六十四夜の願い』は季節ものというのときれいにまとまっていました。
若干、説明不足なのが改善の余地かと思われます。
『ベッド』は一行小説として、なかなか余韻が感じられた良作でした。
この手の小説は風呂敷を拡げず、ささいな日常の感覚を描くのに向いてますね。
『ダブルバインド 彼女の苦悩』は不器用な少女に好感がもてる作品でした。

《総評》
なぜなんでしょうか? なんかやたら「死」にまつわる作品が多いこと多いこと。
理由を考えてみたんですが、やっぱり水嶋ヒロの『KAGEROU』に影響されてるんですかね?
発表が新年の1月なので、できれば明るい作風の作品を期待していたのですが……
まあ、12月は寒いし暗いしで生死について感ががちなんですかね。
それと今回は投稿者に喝をいれるためにも金賞は該当作品なしとさせてもらいました。
今回は全体的に説明不足の作品が多々見うけられたので、そこも注意してほしいですね。
あまり詰め込みすぎないのがコツです。800字で多くは語れません。できるのは掘り下げることです。
それでは1月期は年も新たに心機一転、斬新なアイデアと表現の作品をお待ちしています!

<受賞作品全文掲載>
ななちゃんのにっき 金色のミヤ著

●十二月二十日●

パパがユミちゃんをぶった
ユミちゃんがないてた
ななはなにもできなかった

どうしてパパはユミちゃんをぶったの?
なながきいてもパパはこたえてくれない
ユミちゃんはないてた

ママはもういない


●十二月二十一日●
もうすぐクリスマス
ななはたのしみでワクワクしてる
ユミちゃんもワクワクしてる
でもパパはイライラしてる
とてもつらそう

プレゼントほしいな
サンタさんにおねがいしてもいいかな
ユミちゃんがパパにそういった
パパがまたユミちゃんをぶった

ななはみてるだけだった
ななはぶたれたくなかった
パパはきっとななもぶちたいんだ
さいきんいつもパパはおこってた
さいきんいつもユミちゃんはないてた

なんでみんななかよくできないんだろう

ママはもういない



●十二月二十二日●
ユミちゃんがうごかなくなった
パパがしずかになった
おうちがしずかになった


ママはもういない


●十二月二十三日●
パパがうごかなくなった
ユミちゃんもうごいてない
ななだけがうごいてる

あさごはんがおいしくない
ばんごはんもおいしくない

みんなおきて
ななとごはんたべて

むかしみたいにわらお


ママはもういない



●十二月二十四日●
こんやはクリスマスだ!
たのしいな
たのしいな
サンタさんプレゼントくれるかな

パパもユミちゃんもこたえてくれない

おふろわかしたからはいって?
ケーキたべよ?

みんな くさい
みんな いやなにおい


むし
むし
むしがいっぱい

くさいよ
ごはんおいしくないよ


ママはもういない



●十二月二十五日●

つかれた


●十二月二十六日●

ママたすけて


●十二月



「……日記、ここで終わりっすね」

「ああ。嫌な事件だ……妹と父親を殺したのが、八歳の姉とはな」

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第1回日昌晶掌篇文学賞 11月期選考結果発表

少し遅くなってしまいましたが、11月期の結果発表です。
今回は先月よりも、少し増えて39作品のエントリーでした。

【金賞(11月期月間賞)】(副賞:780円ギフト券)
『空のあなた』 あかさたな

実は11月期はこれはというようなアイデアあふれる作品がなかったので
ふだんは目立ちにくい、しんみりとした読ませる作品が脚光を浴びての受賞となりました。
奇をてらうことなく、ありふれた題材ではありますが、800字以内の制限にもかかわらず
情感豊かによくまとまっていることをもっとも評価した作品です。
よくあるネタだだし簡単に書けてしまいそうですが、もっとも表現しにくいタイプの作品なんですね。
余韻の残し方もうまく決まっていて、読ませる作品となっていました。

<受賞コメント>
コメントがもらえしだい、後ほど掲載します。


【銀賞】
『金曜日限定の物語所』 玲レイ

審査している最中、今回は銀賞は該当作なしかなと思っていたのですが
どうにか銀賞として評価し得る作品がありました。
この作品は母親の語るファンタジーのお話と作品全体を包むファンタジーの二重構造が
おもしろみを醸しだしていて、なかなか味わいある作品となっています。
一筋縄ではいかないアットホームな雰囲気も評価したいと思います。


【佳作】
『地雷処理』ふっとん屋
『ミルク』雷鳥
『トシだよトシ』金色のミヤ
『あたしは知らない。』 Roth
『扉』ゼミ長
『星に願いを』ミカ
『青いねずみ』一重
『カモミール』C-hris
『僕が狂っているのか、世界が狂っているのか』シーモン
『天使』雷都
(以上10作品、投稿順)

『地雷処理』はネタはいいのですが、作者が照れてしまってハジけきれなかったのが惜しい作品でした。
『ミルク』はトリックとほのぼの感がいい味を出していました。
『トシだよトシ』はコント的なコメディとしてよく書けていましたね。
『あたしは知らない。』は、シュールさがいいのですが、ちょっと結末が表面的に上滑りしてしまっているので
もう少しダッチワイフにリアルな女性の感情を与えるとよかったかと思います。
『扉』はネタは面白いのですが、ややありふれた展開ではあるので、
もう少し見せ方や構成に工夫ができていれば更に上にいけたかもしれません。
『星に願いを』はすっと読めてしまうのですが、もうひとひねり作者ならではの部分がほしいところでした。
『青いねずみ』は雰囲気はいいのですが、もっと読者にわかりやすく書けていればもっとよかったでしょう。
『カモミール』も同じですね。雰囲気はいいのですが、主人公の心情をもっと読者にわかるように書かれているともっと評価されてもいいと思うくらいの出来になるかと思います。
『僕が狂っているのか、世界が狂っているのか』は、ありふれたネタですが、そつなくまとまっていました。
このつぎはもっと作者のオリジナリティある作品を期待しています。
『天使』はこのブログで超短編小説を紹介した関係で今回かなりエントリーがあり、
そのなかでもイメージがもっともふくらむ作品だったので佳作としてみました。


《総評》
11月は作品数は増えたのですが、これはというような際立って目立つ作品がなかったので
12月はぜひ思わず瞠目してしまうような作品をお待ちしています。
それと前回、季節はずれのバレンタインネタはやめてとお願いしたところ、それはなくなったのですが
季節ネタの作品はほとんどなくて、変わりにバレンタインじゃないけど告白ネタが散見されました。
恋愛ネタ、告白ネタは結構なんですが、そのまんまストレートに書かれてしまっても
競争率も高いし、見る目も厳しくなっていますので、もっと工夫した演出をお願いします。
ありふれたテーマやネタでも見る角度を少し変えただけでも作品の印象はがらりと変わるものです。
せっかくの掌篇小説なので、もっといろいろなことに挑戦した小説をお待ちしています。
チャレンジとしては、数行の超短編小説がありましたが、非常におもしろい傾向だと思います。
かなり難易度が高いので、挑戦しがいがあるかと思いますので、引き続き頑張ってください。
それでは折り返し地点となる12月期もよろしくお願いします。


<受賞作品全文掲載>
空のあなた あかさたな著

「ご臨終です」
 医者からの無慈悲な宣言が病室に響いた。
 伯母は、わたしとわたしの両親、それに伯母の友人たちが見守る中、静かに亡くなった。
 伯母の死に顔を眺めて、誰かがポツリとつぶやいた。
「ねえ見て。微笑(わら)ってる……」

 伯母は卵巣がんだった。気がついたときにはもう手遅れで、卵巣から腹膜へ転移して全身を蝕んでいた。伯母自身も長くないことを悟っていたのか、病院では緩和治療だけしか受けなかった。
 葬儀は故人の遺言を受けて父が喪主となり、ごく小さくささやかに行われた。父は喪主としての務めを粛々と果たしていたが、その背中はいいつもより随分と小さく見えた。

 伯母は優しい人だった。料理も上手で家庭に入ればさぞいいお嫁さん、いい母親になったに違いないと周囲から言われていた。
 でも伯母は生涯独身だった。旦那さんも子供もいない。
もともと伯母には婚約者がいたという。しかし式が迫ったある日、婚約者は事故で帰らぬ人となってしまった。事故から数年経ったあと、周囲の人たちは伯母に他の人との結婚を勧めたけれど、彼女は決して「うん」とは言わなかった。
 わたしがまだ幼く、伯母が遊び相手でお守をしてもらっていた頃、どうして結婚しないのか聞いてみたことがある。今考えればその問いはぶしつけで、遠慮のない、子供ゆえの残酷な質問だとは思う。でも伯母は機嫌を損ねるわけでもなく、いつものように優しい顔で、それでいながらはにかみながら答えてくれた。
「どうしても、あの人と結婚したかったんだよね……」
「あのひとってぇ?」
「伯母ちゃんの、好きな人」
「だぁれぇ?」
「ちょっと遠くに行ってて、会えない人……。いつ、会えるかしらね……」
 あのときの伯母は空遠くを眺めて、目を細めて微笑んでいた。

 ――今のわたしのように。

「……会いたかったあの人に、会えていますか……?」
 火葬場の煙突から立ち上る煙は、色素の薄い青空に溶けて消えていった。



金曜日限定の物語所 玲レイ著

 僕の母さんは、酔うと夢物語しか口にしなくなる。
「お母さんは異世界にトリップしたの。そこでお父さんと出会って、今ではおしどり夫婦よ」
 三日に一度は大喧嘩をするくせに、おしどり夫婦と自称するのは如何なものか。それ以前にお酒に弱いのだから手を出さないで欲しいと常々忠告しているのに、彼女は金曜日になるとそれを無視する。
 若い頃の母さんは作家志望だったらしい。酔うと昔の血が騒ぐのだろう。母さんの物語には「異世界」「魔法」「世界を救う」という言葉が度々登場する。ありふれた単語に「だから作家になれなかったんだな」と冷めた目で母親を見ていた。
「お父さんは魔物と闘ったの?」
 妹が興味津々で訊ねると、母さんは「そうよ、お父さんは武術の達人だったんだから」と胸を張った。父さんを異世界のキャラクターに仕立て上げるのはどうかと思う。
 母さんにお冷を用意していると、玄関から音がした。扉が開くと同時に「ただいま」という声が届く。
「母さんはまた呑んだくれになってるのか」
「今日は父さんがモンスターハンターになってるよ」
「ああ、その話か」
 否定しない辺り、父さんも浪漫主義者なのかもしれない。
 その後、母さんは夫にずるずると引きずられ寝室へ姿を消した。
「ねえ、その内離婚しないよね?」
 心配になって聞くと、父さんは「しないよ」と笑う。
「母さんには何度も救われたからな」
「魔女だったの?」
 皮肉たっぷりに返す。父さんは「そういう意味じゃない」と苦笑した。
「父さんの親しい人が次々と死んだ時期があってね。その時に随分と力になってくれた」
「母さんが?」
「そうだよ。母さんは強い人なんだ。父さんよりずっと」

 翌日。母さんは「嘘だよ嘘」と昨日の発言を必死に撤回した。
 僕が「本当は異世界に行ったんじゃないの?」と冗談を言うと「そんな訳ないでしょ!」と何故か酷く焦っていた。

 そして、次の金曜日もファンタジックな物語は語られるのだ。

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第1回日昌晶掌篇文学賞 10月期選考結果発表

お待たせしました。10月期の発表です。今回の応募総数は34作品でした。
今回も力作ぞろいで選考は難航しましたが、ここに発表させてもらいます。

【金賞(10月期月間賞)】(副賞:680円ギフト券)
『キッチン』 かえで公

まず、この作品はとてもおもしろいです。
残念ながら吉本ばななの『キッチン』を読んでいない人には
このおもしろさが半減以下になってしまうのは非常に残念ですね。
いくら言ってもラノベしか読まない人も多いので
少し昔の大ベストセラーでも読んでない人はわりと多いんですかね?
こういう他作品をオマージュする作品は私が気づいた限りでは、この賞では初めてです。
冒頭を読みはじめたときは「おや、どこかで読んだような?」という既視感というか既読感をいだき
その後に続く違和感となぞときの展開の妙は非常に良質のパロディでした。
『キッチン』を読んでいない人にはちょっとわからないでしょうが、まさに金賞にふさわしい作品です。

<受賞者コメント>
コメントがもらえしだい、後ほど掲載します。


【銀賞】
『紙飛行機』 舞華

なにげない学校シーンの1コマをきりとった物語です。
なので、これといった事件が起こるわけでも魅力的な主人公が出てくるわけではありません。
しかしながら、この作品は掌篇小説にとって、とってもたいせつな読後の余韻があるんですね。
その余韻は「紙飛行機」というモチーフによって、きれいに描写されています。
とても清涼感のある青春の物語です。


【佳作】
『もうだめ……! part.2』 ゼミ長
『カボチャばばぁの報せ』 雷鳥
『誰か拾って下さい』 玲レイ
『物思いの秋』 乾芳秋
『どこに行くんだろうか?』 遥かな時を生きる2
『そうだ。普通に生きよう』 おっとー
『ガサ入れ』 星兎心
『舌と缶』 コフィ
『ワカリアエナイイタミ』 けいぶん
『歴史の誤解』 さやにゃ
(以上10作品、投稿順)

『もうだめ……! part.2』は言葉遊びシリーズ?の第2弾ですが、
まだやるかという心意気を今回は評価してみました。前回よりもおもしろくなっていますし。
『カボチャばばぁの報せ』のようなオチのない作品というのも掌篇で味がでてきます。
この最後まで読んでも「おや?」と思わせる微妙な設定がいい味をだしておもしろい読後感になっています。
『誰か拾って下さい』は王道路線のライトノベルな展開が繰り広げられますが
最後に主人公が「ファンタジー」を否定してリアルに戻るところがおもしろいです。
『物思いの秋』はうってかわって思索的な作品です。なんでもないようでいて奥が深いのが気に入りました。
作品の中に描かれた情景の美しさも高評価です。
『どこに行くんだろうか?』は最後まで銀賞かどうか悩んだ作品です。
作品のテンポ、展開、余韻ともによく出来ておもしろかったですが、ややありきたりではありました。
『そうだ。普通に生きよう』は偶然の物語がおもしろく読めました。
難点としては展開がご都合主義すぎるので、しっかりとした理由があればもっと上にいけたでしょう。
『ガサ入れ』は刑事ギャグもので、なぜかこの賞では定番路線ですよね。
定番なだけにおもしろくできていたと思います。もちろん下品なところも含めて。
『舌と缶』はなにげないシーンとどうでもいい日常を執拗に描くことでおもしろさがでています。
こういった作品はいかにも掌篇小説らしくていいですね!
『ワカリアエナイイタミ』はアイデア勝ちな作品です。
この手の実験的な作品としては完成度が高いところを特に評価しました。
『歴史の誤解』はショートショート風SFの意欲作で完成度も高かったです。
おもしろいのですが星新一作品のようなシニカルさを加えると、もっとおもしろくなりますよ。


《総評》
中だるみというのか、投稿作品数は微減しているというか、落ち着いてきたのですが
投稿作全体のでレベルは確実に高まってきています。
数ヶ月前なら確実に佳作になった作品でも、今では入選が難しい状況です。
小説は小説でも掌篇小説独特の書き方や世界観が浸透してきたとよろこんでいます。
余談ですが、これまで夏から秋にかけて募集してきているのですが
なぜか毎回「バレンタイン」ネタが投稿されてきています。
それだけ話が作りやすいのかもしれませんが、ありがちな設定なだけに
選者が「おおっ!」と感動して入賞に至るケースも少ないです。
季節イベントをやるなら、季節感に合わせてもらったほうがいいかなと。
毎月の選考ですから、季節ものの作品はちょっとだけですが評価高くなりますよ。
だいたい発表は1月遅れなので、投稿時には1ヶ月早取りしたものが望ましいですね。
今ならさしずめ「クリスマス」ネタでしょうか。
それでは、来月もよろしくお願いします!


<受賞作品全文掲載>

キッチン かえで公著

 私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。
どこのでも、どんなのでも、それが台所であれば私はつらくない。
できれば機能的で機材も多く、よく使い込んであるといいと思う。
ものすごくきたない台所だって、たまらなく好きだ。寧ろきたない方が好きだ。
床に野菜くずがちらかっていて、スリッパの裏がまっ黒になるくらい汚いそこは、異様に広いといい。そして物がたくさんあるといい。
食料がならぶ巨大な冷蔵庫がそびえ立ち、その銀の箱が私の生きる場所だ。
油が飛び散ったガス台や、さびのついた包丁からふと目をあげると、窓の外には淋しく真夜中の星が光る。
こんな時、私はよくうっとりと思う。
いつか死ぬ時がきたら、台所で息絶えたい。
ひとり寒いところでも、だれかがいてネバネバしてるところでも、私はおびえずにちゃんと見つめたい。台所なら、いいなと思う。
吉本家で生まれてから毎日台所で眠っていた。
どこにいても何だか寝苦しいので、暗い所へと流れていったら、冷蔵庫の下が一番よく眠れることに気付いた。
両親はそろって若死している。だからと言って誰も私の事など育ててくれない。そんな事良くある事だ。私は落ちているもの捨てられているものを食べて生きてきた。
親戚達も目まぐるしくどんどん死んでいく、私がどんどん産んでも子供もすぐに死んでいく。
次死ぬのは自分かもしれないと恐怖すると、いつも冷蔵庫からするぶーんという音が、私を孤独な思考から守った。
そこでは、けっこう安らかに長い夜が来て、朝が行ってくれた。
ただ星の下で目覚めたかった。
朝の光りで眠りたかった。
それ以外のことは、すべて淡々とすぎていった。
しかし! そうしてばかりもいられなかった。現実はすごい。突然台所の電気が点いたかと思うと
「きゃーっ! ゴキブリッ!」
という家主、吉本ばななの悲鳴が聞こえ、即座に私は丸められた新聞紙でぺしゃんこにされた。


紙飛行機 舞華著

授業があまりにも暇だったので、教科書を1ページ破って紙飛行機を作った。
「なぜこんなにも退屈な授業を受けなくてはならないのだろうか。」
ふと、学生にはあるまじきばかばかしい疑問が頭をよぎった。
窓の外では木々が穏やかに揺れている。
夏の暑さも過ぎ去り、けれど日中はまだ寒いとは言い難い
どちらかと言えば心地よい秋のある日。
あぁ、サボればよかった。
サボって、屋上のいつもの場所で昼寝をしていれば……。
今更ながらに悔やまれる。

紙飛行機を飛ばす。

風邪に乗って窓の外まで飛んでいく。
どうやら巧く作れたみたいだ。
「私の代わりにどこかへ行ってくれ。」
なぜか窓の外へ飛んでいく紙飛行機を見て思った。
考えにふけっているとふと私の頭に衝撃が訪れた。
「っいた!」
思わず叫んでしまった私の目に、
先ほどまで教壇で板書をしていたはずの先生が映った。
手には教科書を持っていた。
「またお前は。」
「ははは……。すみません。」
ため息をつきながら先生は教壇へと戻っていく。
クラスメイトはクスクス笑っている。
いつも先生は怒りはしないが、
授業を聞いていないのを見つけると教科書を生徒の頭に降らす。
角でもないからそこまで痛くはないのだけれど、
さっきみたいに油断していると突然の衝撃に驚くのだ。

頭をさすりながら再び窓の外に目をやると
校庭の端の木の辺りを飛んでいる紙飛行機が見えた。

世界一短い小説

日昌晶掌篇文学賞も11月期にはいりました。
初期よりも書き方や表現の仕方も上達して、意欲作や秀作も増えてきています。

そこで、きょうはちょっと掌篇小説よりも、もっともっと短い小説を紹介したいと思います。
ちょっと前に140文字以内のTwitter小説なんてものもありましたが、調べてみるとですね、
これがまた、140文字とかそんなレベルじゃないんですよね。
世界にはもっともっと短い小説が存在していたのです!

それでは、さっそく紹介しましょう。
英語圏の作品ですので、原文に訳文を添えておきます。

フレドリック・ブラウン Fredric Brown(1906-1972)

Knock
The last man on earth sat alone in a room. There was a knock on the door ...

『ノック』
 地球最後の男が部屋にいた。そこにノックの音が……


ブラウンはSF小説の黄金期を築いたSF作家でショートショートの名手。
長編では『発狂した宇宙』(1949)と『火星人ゴーホーム』(1955)が有名。
ブラウン作品のほとんどが1000ワード以内、500ワード以内というのも珍しくないとか。
この『ノック』も、たった16ワードで書かれています。
(日本語は文字数ですが、欧米では単語数で計算するのが一般的です)

『ノック』はSF設定でいて、サスペンスであり、ホラーにもなりそうな作品ですよね。
ありえない状況に対する不安と恐怖を感じさせる妙味はさすがだと思います。

そして世界でもっとも短いとされるのが、これ。
作家については、ちょっとよくわからないのですがSF作品です。
ショートショートはSFが多いんですよね。

ロジャー・ディーリー Roger Deeley

Time ended. Yesterday.

 時間は終わった。昨日で。


恋愛小説としては、こんなものもありました。

ジェフ レンナー Jeff Renner

Boy meets girl.Boy loses girl.Boy builds girl.

 少年は少女と出会う。少年は少女を失う。少年は少女をつくる。


最後の'build'の意味がちょっとよくわからないので、わかる人がいたら教えてください。


そして最後に紹介するのは世界的文豪の作品になります。
ディーリーの作品は3ワードで、こちらは6ワードですが
やはり価値ある小説という意味では、こちらを世界でもっとも短い小説としても
いいんじゃないかと思えるような出来映えです。

アーネスト・ヘミングウェイ Ernest Miller Hemingway (1899-1961)

For sale: baby shoes, never worn

 売ります:赤ちゃんの靴、未使用


どうですか? なにげない一文にもなっていない作品ですが
これぞ掌篇というような余韻を残すことに成功しています。

この広告?を出した人はどんな人だったのか?
お店の人なら"never worn"なんて表現は使かわないで、"new!"を使うはず。
すると、この広告は地方紙やコミュニティ誌の物々交換コーナーみたいなところに
普通の人が出稿されたものなんじゃないかなと想像できるわけですよね。
でも、普通の人が未使用の赤ちゃんの靴を売るシチュエーションとはどういうことなのか?
この広告をだした主人公の人生についての想像が読者のなかでどんどんと拡がってゆきます。

これが作品の余韻なんですね。
掌篇小説でも、このような余韻を残せるかどうか、それがたいせつになってきます。
短い言葉で全て語り尽くすことはできません。
言葉がたりないところは、読者の創造力に任せる。

文豪なら6ワードでこれだけのことができるのです。
800文字なんて大長編に思えるほどの文章量です。
あなたは、限られた文字数で、どこまで語れますか?
そして、読者にどれくらい大きな想像の翼を与えられますか?

第1回日昌晶掌篇文学賞 9月期選考結果発表

今回で3回目となる9月期の結果発表です。
9月期の応募総数は、先月よりやや少ない36作品でした。
数は少ないし選考も少しは楽になるかなと、ちょっとタカをくくっていたのですが
驚くほど格段に投稿作全体のレベルが上がっていたために選考はかなり難航しました。
前回、前々回は一読すれば、金賞や銀賞の出来は頭ひとつ飛び抜けていたのですが
正直、今回の金賞受賞作と佳作の差は本当に僅差でした。
今後もっと良作が数多く投稿されることが予想されるので
選考委員長の私も、もっと気を引き締めていかないといけないなと思いました。
それでは各賞の発表です。

【金賞(9月期月間賞)】(副賞:720円ギフト券)
『君(僕)の終わりを僕(君)は知らない』 おっとー

転校による男女の別れというテーマ自身は、それほどありきたりではないのですが
透明感がありつつも壊れやすいガラスのような青春らしさにあふれた情感が
とても小気味よく伝わってくる作品にしあがっていました。
作品に添えられたコメントを読むと、実際に作者が感じていた気持ちを作品として
そのまま書くのではなく、巧く作品として昇華できているなと思います。
※もちろん作品以外のコメントは評価に含まれていません。

<受賞者コメント>
ありがとうございます!金賞を戴いて、書くモチベーションがグッと上がりました。次も参加しますっ!

【銀賞】
『遠そうで遠くない、ちょっと遠い恋路』 日暮レ

金賞と同じく銀賞も青春期の恋愛ものとなりました。
こちらは情感よりも男女間の心の機微と齟齬によるすれちがいがテーマでした。
掌篇小説は日常の一コマを切りとって、それを作品にすることが多いのですが
たいがいの人が通ってきたであろう共通体験というのは共感できますよね。
結末が予定調和というのは掌篇なので気にならないところなのですが
ちょっとした表現や演出の差で、一歩およばず銀賞とさせてもらいました。

【佳作】
『戦士の伝説』 ゼミ長 
『幸せになりたくて……』 ミカ
『シュガーレスライフ』 玲レイ
『さくら』 ぺんぎん
『ルール』 飄凛然
『めしばな』 雷鳥
『あなたには会いたくない』 ジャイ
『後書き ~ご協力いただいた勇者に感謝します~』 さやにゃ
『僕の名前』 劉樹
『小さな魔女のいたずら』 あかさたな
(以上10作品、投稿順)

『戦士の伝説』は展開やオチ共にライトノベル風で軽妙で読みやすかったです。
実は中学生のときに私も経験ありますが、同じく先生に怒られた人も多いのでは?
『幸せになりたくて……』は怪談話の典型で「累ヶ淵」の類型ではあるのですが
いろいろと趣向も凝らされていたのと、ホラーで良作が少ないので選出しました。
『シュガーレスライフ』は恋人同士のちょっとした痴話げんかを描いていて
そのほほえましさがよかったです。あと結末にもう一工夫あればよかったですね。
『さくら』はシンプルそうで意外とテーマや内容が濃密なのに800字以内でよく書けていました。
結末など、もう少しキーワードとなる「旅」に絡めるとよりよくなるでしょう。
『ルール』は前半の鬱々とした重たい文章に対して、後半のオチにあたる軽い文章とが
よく対比されていて面白く書けていました。ただ前半の会話文がラノベっぽいのが残念。
『めしばな』は着想も面白いし、よく書けていましたが、あともう少しなんですが
主人公の心理を巧く描ききっていれば、より上位を狙えたでしょう。
『あなたには会いたくない』は良くも悪くもお手本になるような良作なんですが、
欲をいえば、もっと作者の個性をだしてアクのある作品でもよかったですね。
『後書き ~ご協力いただいた勇者に感謝します~』はアイデアを評価したのですが
どうしても掌篇では収まりきれないスケールなので読者が置いて行かれがちになっています。
ショートショートではないので、あまり技巧的に走らないほうがいいと思います。
『僕の名前』は聖書の創世記に題材をとった作品になっているわけですが
童話風の素朴な文章表現とあいまって、効果的に演出できていました。
『小さな魔女のいたずら』は、時期的にもタイムリーですし、作品としても良作です。
さらに上をめざすなら登場人物の個性がよくわかるように書けるといいですね。

《総評》
結果を発表するのも3回目となりましたが、受賞者の名前を見ていくと
いわば常連となるような人たちも出てきたようです。
やはり文章の基礎ができていると人、物語のなんたるかがわかっている人と
そうでない人では実力差が如実にあらわれてくるんですよね。
ですから基礎を身につけた人は、コンスタントに一定以上の評価できる作品を
書き続けることができるということなのでしょう。
とはいえ基礎力さえつければ、長編より容易に上を狙えるのが掌篇の魅力です。
慢心されても困りますが、何度も選出される人はそれなりに実力があると思っていいですよ。
またいくら書いてもなかなか選ばれない人は、作品云々よりも、
まず基礎を身につける努力をしたほうが、掌篇だけでなく投稿用長編のためにもいいでしょう。
今回選ばれた人も選ばれなかった人もまたよろしくお願いします。



<受賞作品全文掲載>

君(僕)の終わりを僕(君)は知らない  おっとー著

 よく晴れた日の昼下がり、僕とちはるは学校を抜け出した。ちはるの手を引っ張りながら、何故抜けだしたのか、何処に向かっているのか、今さらそんなことを考えた。
「結構、大胆なんだね」
 初めて来た小さな公園のブランコに座ると、ちはるは普段と全く調子を変えずに言った。
「憧れてたんだ。好きな人と抜けだすの」
 精一杯格好を付けたし、今の僕にとって一世一代の告白だったのに、ちはるはさりげない表情でブランコを漕ぎ始める。僕のお気に入りの、ちはるの後ろで二つに結んだ髪が宙で波打つ。
「ちはるって興味がないと無視するタイプの人間?」
「どうしようもないことは無視するタイプの人間」
「ははは」
 頑張って笑みを湛えてはみたけれど、胸は粘り気のある泥水でも流し込まれたように重苦しいし、泣きたいし、叫びたい気持ちでいっぱいになる。
 ちはるはブランコから「ほいっ」と跳躍して降りると、徐にフェンスのある方へと歩く。俺もその後ろ姿を追うようにフェンスの方へ歩む。
「住宅街もこうやって見ると、割と良い景色だよね」
「あ、うん。そうだな」
 公園は高台に位置していて、住宅街を俯瞰から見渡すことが出来た。
「こんなに広い世界で、また会うことってあるのかな~」
「あるだろ。電話も手紙も、パソコンだってあるし」
「そんなんじゃなくて、〝このままで〟って意味」
「ふ~ん?」
 良く意味が分からずにちはるを見たが、ちはるは街から視線を外さなかった。
 ちはるは繋いでいた僕の手を一瞬、ギュッと強く握ったあと、優しく手を解いた。
「ばいばい」

 翌日、ちはるはこの街を去った。親の都合で転校。
 お別れ会の後に二人で学校を抜けだしたことは長々とからかわれ続けた。けれど、ちはるが転校して一年、俺に彼女が出来た。ちはるも向こうで彼氏が出来たらしい。
 その時に俺はやっと〝このままで〟の意味が分かった気がした。
 二十年三十年経っても、会うことはないんだろうな。ということも。



遠そうで遠くない、ちょっと遠い恋路 日暮レ著

「気持ちってのは言葉にしなきゃ伝わらないよ。感謝でも謝罪でも、相手が察してくれるのを待ってちゃキリがないもの」
 それが彼女の口癖だ、そして俺も概ね同意見である。

 ――だがしかし、それが出来たら苦労などしないというのも確固たる事実だ。
 彼女に一言「好きだ」と伝えられたなら、「俺の女になれ」なぁんてワイルドにキメられたのなら……。
 現実は皮肉であり、悲惨でしかない。
 俺が少しでも好印象を残そうと四苦八苦したところで、彼女は何の反応も見せないのだ。
 彼女がとことん鈍いのか、それとも俺のアプローチが地味なのか。……男として見られていないという可能性はこの際捨て置くとする。
 先はあまりに長い、果たしてこの不毛な恋が実る日は来るのだろうか……?



「……はぁ」
 その日、珍しく彼女が溜息を吐いた。
 いつも鉄仮面で機械の如く働く彼女にしては、あまり見られない光景である。
「どうかしたんですか?」
「あー、ちょっとね」
「悩みごととか?」
「いや、悩みってほどじゃないんだけど、……世の中そう思うようには行かないなぁってさ」
 少し意外だった。
 彼女はもっとこう、『パーフェクト』な部類の人間だと思っていたのだ。
「伝えたいことがあっても伝えられないとか。一言で良い筈なのに、その一言がどうしても出て来ないとか」
「ああ、解ります。そういうコトってありますよね」
「何でだろ?」
「……きっと臆病になるんでしょうね。傷付いたり、傷付けたりするのが怖くて踏み込めなくなるんですよ」
「じゃあ臆病者は相手が何とか気付いてくれるまで、遠くから祈り続けるしかないのかな?」
「そうですね、でも……」

 ――あくまで希望に過ぎない。

「じっと眼を逸らさなければ、いつか相手だって気付いてくれますよ、きっと」

 ――けれど、期待するのは自由だ。

「……うん、そうだと良いね」
 俺と彼女は少しの間お互いの顔を見つめ合い、やがてどちらからともなく笑い合うと、二人して深い溜息を吐いた。

第1回日昌晶掌篇文学賞 8月期選考結果発表

日昌晶掌篇文学賞も2回目の結果発表となりました。
8月期も大好評で、応募総数51作品でした。
前回よりもコツをつかんだ方も多く、全体的なレベルも向上していて
選考は難航しましたが、どうにか結果を発表するにいたりました。
それでは、さっそく発表(敬称略)にうつりましょう!

【金賞(8月期月間賞)】(副賞:1000円ギフト券)
『完璧な計画』(仮題) ゼミ長

先月の銀賞も完全犯罪ものでしたが、今月は金賞となりました。
べつに選考委員長である日昌晶の趣味だから選ばれているわけではないのですよ。
やはりユーモア作品としては非常にシンプルであり、印象に残る作品として高く評価しています。
特にこの作品がおもしろいのは二段オチになっているところですよね。
最後の3行がなければ、佳作止まりだったかもしれませんが、たった3行で
ともすればバカバカしいだけのギャグをぎゅっと引き締めることで
きちんと小説作品として成立させてくれています。構成力の勝利ですね。
そして完全犯罪の内容がまともなだけに主人公のマヌケさがひきたっています。
惜しむらくは作品のタイトルがなかったので、
便宜上、私のほうで勝手にタイトルをつけさせてもらいました。

<受賞者コメント>
コメント……といわれましても、気の利いたことは言えませんが、
正直なところ、最初は目の錯覚かと思いました。
前回の佳作でも驚きだったのに、まさか金賞までいただけるとは。
掌編はほとんど書いたことが無かったので、
仰天というか驚愕というか……ともかく驚きました。
最後に、題名の書き忘れ、申し訳無いです。
今後もさらに精進を続けて、
またいい案が浮かべば投稿したいと思っていますので、
どうぞよろしくお願いいたします。

【銀賞】
『全裸学級』  Nei

不条理。それに尽きます。
若人は知らないかもしれませんが吾妻ひでおの漫画を彷彿とさせる
エロで不条理な作風は、なかなかマネできるものではないですよね。
これだけの文章でここまで描ききってしまえることに脱帽しました。
着想、コンセプトともに金賞にしようかどうか悩んだのですが、
最終的に勝敗を分けたのは作品の最後の部分でしたね。最終行はよかったのですが、
その直前の数行については、もう少し読者を強引に納得させてしまうような
不条理さに徹していれば、もう一段、上のステージの作品にしあがったと思います。

【佳作】
『京の夏風邪』 あっきん
『ストーカーはすぐ側に……』 玲レイ
『天使の遺伝子は平等に』 とと
『馬鹿どもに、河童の加護よあれ』 ミカ
『嘘つく』 堕落の天使2@
『コロッケ』(仮題) 貸しましょうか?
『一歩を踏み出す勇気』 飄凛然
『寝過ごした!』 ラムネ
『地図』(仮題) コートニー
『新盆の幼なじみ』  電波だぬき
(以上10作品、投稿順)

『京の夏風邪』は数少ない季節ものでしたね。物語に意外性はないのですが、
小気味よく京都の風物詩を織りこんで情感豊かなところを評価しました。
『ストーカーはすぐ側に……』は、タイトル的にネタバレしてしまっているのが惜しいですが
いかにもライトノベルなノリの軽快さは読みやすかったです。
『天使の遺伝子は平等に』は着想はすごく評価していますが、結末にひねりがなかった。
最後に「おおっ」と思わせてくれれば、金賞になっていたかもしれません。
『馬鹿どもに、河童の加護よあれ』もせっかくの河童という題材をもう少し作品に活かせたら
もっと上にいけたんじゃないかなと思います。河童である必然性がほしかったですね。
『嘘つく』は青春の一コマっていう感じがよく表現できていておもしろかったです。
この作品も最後にひとひねりがなく、一昔前のラブコメ漫画になってしまったのが惜しかったです。
『コロッケ』は、もともと無題だったので、こちらで便宜的につけたタイトルです。
どうも情感と余韻を残す作品が少ないなかで、高いクオリティとなっていので高評価しました。
『一歩を踏み出す勇気』は叙述トリック的な作品ですが、主人公のいじましさがよく描けていました。
全体的に現代詩モドキになってしまっているので、もう少し文章を工夫すると、ぐっとおもしろくなります。
『寝過ごした!』は先月の金賞だったラムネさんの作品ということで、作品のレベルは高いです。
先月のように登場人物がもっと読者に好かれるように描けていれば、もっとよかったですね。
『地図』も無題だったので仮題です。数少ない異世界ファンタジーの世界を800字以内にまとめて
情感豊かに描ききっている点を評価しました。
『新盆の幼なじみ』は、ストーリー自体はよくあるステレオタイプなのですが
巨大なナスの牛に乗ってくるといったガジェットの使い方を評価しました。
普通に終わらせずに、最後をもっと工夫するともっと印象深い作品になりますよ。


《総評》
今回は全体のレベルもあがってきましたので、選考は難しかったですね。
しかし前回は1作もなかったのに、なぜかタイトルのない無題作品が多い、多い……
タイトルも作品のうちです。作者はしっかり題名もつけてあげてくださいね。
それから佳作も含めて全体的に、オチというか、作品の締めがおざなりな作品も多かったです。
ありきたりに終わるならまだいいのですが、結局なにが言いたいのかわからないうちに
プッツリと終わってしまっている作品が目立ちました。
情感を残そうと思ってなのかもしれませんが残念ながら余韻はありませんでした。
ライトノベルでは、あまり余韻を残して書く機会がないのですが
エピローグなどでは有用なスキルなので、ぜひ研究してみてください。
あと先月も書いたと思うのですが壮大なテーマを扱うには掌篇小説は不向きな媒体です。
逆にトリック的なアイデアに夢中になってしまい、物語がおざなりの作品も見受けられました。
掌篇小説は本当に短い作品なので、ちょっとしたバランスの狂いで傑作にも駄作にもなります。
その点を注意して、次回も頑張ってください。


<受賞作品全文掲載>

完璧な計画(仮題) ゼミ長著

 ふっふっふ、我ながら完璧な計画だ。
 まずは妻をレジャーとして山に連れ出し、殺害。他人の犯行に見せかけるために自らも重傷を負い、どうにか車を操り病院へ向かう。問題は凶器の始末だが、これは問題ない。犯人がその場に捨てたことにすればいいのだからな。もちろん、その後は警察に事情を聞かれるだろう。そこで俺があった事がないことになっている妻の叔父をモンタージュ作成の際に犯人に仕立て上げる。もちろん、詳細に答えるわけにはいかない。緊急事態に顔を完璧に覚えられるわけがないからだ。実況見分の際も詳細に答えてはいけない。やはりここはうろ覚えでなければならない。怪しまれない程度に事実と違う出来事を散りばめる必要がある。そのあとはあくまで最愛の妻を失った悲劇の夫を演じ続けていかなければならない。あとは一年前に失踪した――まぁ、俺が殺したんだがな――妻の叔父名義の保険金をスイスの銀行を通して資金洗浄。架空の口座に振り込ませる。
 これで邪魔な妻は消え、多額の保険金が俺に入り、スナックのよしみちゃんとも一緒になれる。完璧だ。なんて完璧なんだ俺の計画。なんて聡明で狡猾なんだ俺。ああ、自分の才能が恐ろしくなるぜ……。
 さぁ、叔父の指紋が付いた包丁の準備は整っている。作戦は明日決行だ……。
「ちょっと君」
 ん、なんだ、人が完璧な計画に酔いしれているというのに……。

「ニュースです。本日午後一時頃、会社員の佐藤一郎容疑者(34)が、殺人及び殺人予備罪の容疑で逮捕されました。都内の喫茶店から『不審な男が包丁を片手に何事かを不気味に呟いている』との通報があり、駆け付けた警官が男から事情聴取。鞄からはプリントアウトされた殺人計画書も発見されており、警察では引き続き……」

 ふん、まぁいい。愚鈍な検察や裁判官を出し抜いて堂々と出て行くまでだ。まずは弁護人と共謀し、完璧な計画を……。

「そういうのは、口に出さず頭で考えるだけにするんだな」



全裸学級 Nei著

 南優花が服を着て登校したら、みんな全裸だった。先生も全裸だった。
 一時間目の算数は中止され、優花が全裸じゃない理由を考える会が開かれた。
 いま、優花は黒板の前に立たされて、うつむいていた。

「よし、先生決めたぞ。南に全裸になってほしいから、手をあげる! 何分でも、何時間でも待つぞ!」
 先生がぴしりと手をあげた。
 すっ、すと次々に手が上がる。

 三人だけ、手をあげなかった。
 太っちょの小杉と、優花の親友の智子と、優花の想い人の野田だった。
「南、SR-71Aはさ」
 小杉が立ちあがった。乳首は陥没していた。
「マッハ3で空が飛べるんだ。すげぇよな。でも俺、全裸になったら百メートル十三秒〇二で走れた。二〇秒台だった俺がさ……そんだけ」
 小杉はしたり顔で着席した。まっぱ十三とでも言いたいのだろうか。
 続いて立ちあがったのは智子だった。
 智子は囚人になった友を見るような目で優花を見つめた。
「お願い優花。馬鹿な真似はやめて……私、私、もう……ひっく……」
 とうとう泣き崩れてしまった。隣の子が慰めて座らせた。
 果たして馬鹿はどちらだ。
「南」
 最後に立ったのは野田である。優花は思わず手で顔を覆った。
「どうして全裸にならない」
「それは……恥ずかしくないの?」
「南こそ恥ずかしいだろ。みんな全裸なのに服を着てる」
 何か間違ってないだろうか。優花は必死に自問自答した。けれども、全裸に対する嫌悪と羞恥の理由はわからない。
 ――思えば。自分は常識というものに囚われて、全裸の本質を見抜けていないのではないか。現に、全裸が絶対間違っているということを証明できない。
 優花はあらためて教室を見渡した。
 みんな真剣な全裸で、腕が痙攣しても決して手を降ろすことはない。
 あぁ、クラスが一丸となって全裸を推進している。それなのに自分は、どうして恥じらい、頑なに全裸を拒んでいるのだろうか。人は何故、服を着るのだろうか……
 優花は徐に、ブラウスの第一ボタンに手をかけた。


8月も掌篇文学賞をよろしくお願いします

8月になって早くも半ばになりました。今月も掌篇小説の募集をおこなっています。
新人賞に投稿する作品執筆の邪魔にならないよう、それでいて文章の練習になるようにと
800字以内の掌篇小説を募集しているわけですが、本当にクオリティの高い作品も集まってきています。

このたびは7月期月間賞を受賞したラムネさんの受賞のお言葉をもらいましたので、ここに紹介します。

このたび掌篇文学7月期の金賞を頂きまして、本当にありがとうございます!
こんなに短い小説を書いたのは初めてだったので、新鮮な気持ちで楽しく作ることが出来ました。
800字におさめるために削りながらも、話が伝わるようにと考える作業は、勉強にもなりました。
今回の受賞を励みに、これからも頑張って創作したいと思います。


すでに今月も力作が何作も投稿されています。
誰でも簡単に投稿できますので、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?
今までの自分では挑戦してこなかったジャンルにも挑戦しやすいいので
新たな境地を開拓してみるのもいいかと思います。

ちなみに掌篇小説ってどうやって書けばいいのというひとには掌篇ではないですが
星新一のショートショートと村上春樹の超短編集『夜のくもざる』がおすすめです。
星新一は1冊を選ぶならブラックユーモアの詰まった『悪魔のいる天国』ですね。
その中でも知る人ぞ知る『ピーターパンの島』は傑作ですよ。


第1回日昌晶掌篇文学賞 7月期選考結果発表

文学賞を創設して最初の結果発表となります。
なんと7月期の応募総数は63作品と予想を上回る力作が集まりまして
選考は大変苦労しましたが、どうにか結果をだすことができました。
引き続き8月以降も、どうぞよろしくお願いします!
それでは前置きはこのくらいにして、さっそく結果発表(敬称略)と寸評にうつりましょうね。

【金賞(7月期月間賞)】(副賞:1000円ギフト券)
『前向きにしか生きられない』 ラムネ

とても素晴らしい作品です。やはり他の投稿作より頭ひとつ抜けていたと思います。
よくありがちな設定のようでいて、あまりないタイプの発想なのがおもしろいし、
800字以下なのに登場人物たちが活き活きと動いていて、しかもストーリー構成がしっかりしており
掌篇小説にとって大事な要素である余韻があるのが青春小説らしい清々しさまであります。
なにより評価したのは、この作品の続きを読んでみたいと思わせる力でした。
これは登場人物のふたり(栄と博士)の微妙な関係、距離感が巧く描けているからでしょうね。
設定やストーリーで見せようとする作品が多いなか、人物の魅力で勝負してきたラムネさんの作品は
力作ぞろいの応募作品の中でも一際輝いて見えました。次回作も期待しています。

【銀賞】
『完全密室殺人事件』 うれま

この作品でもっとも評価したのは”勢い”です。
他の投稿作にもコメディ調作品は多かったのでが、ここまで突きぬけた作品はありませんでした。
おそらくこれを短編以上の文章量にしたら、作者を殴ってやりたくなるような作品になるでしょうが
(実際、うれまさんの書いた別作品のネタ系短編について、30分くらいダメだしたことがありまして
周りのオフ参加者には、あんなに説教している日昌晶は見たことがないと言われてしまいました)
掌篇小説という規定においては、ハリセンの一撃のような痛快さになるんですね。
どちらかというとショートショート小説のジャンルに当てはまる作風でしょうか。

【佳作】
『格子の中』 はら
『ドクシャ目線』 時雨日暮
『響音』 葉桜
『悪党』 ledpink
『恋するゾンビのラプソディー』 ミカ
『980円の魔法』 ゆん
『黒い魔王』 ゼミ長
『どっち』 A
『初めてと幸せと』 けいぶん
『花火』 はじめ
(以上10作品、投稿順)

『格子の中』は叙述トリックとして正当派的な作品でよくまとまっていました。
『ドクシャ目線』はラノベ読者、作家志望者ならきっとおもしろく読めるでしょうし
実験的作品としても評価したいと思います。
『響音』と『恋するゾンビのラプソディー』は、発想などとてもおもしろいんですが
最後の最後でオチをどうにかしようとして読んでいて無理さ、強引さがでてしまいましたね。
逆に『980円の魔法』は終わり方はいいんですが、途中で980円というのがネタバレしてしまっているので
そこを巧く回避できていたら、もっと上にいけたと思います。
『黒い魔王』はネタとしてはよくあるものなんですが、ラノベ独特の語彙や言い回しを多用した文章が
楽しめる作品に仕上がってよかったと思います。
『どっち』は哲学的なテーマの意欲作でした。惜しむらくは主人公の葛藤をもっと描いてほしかったです。
『初めてと幸せと』と『花火』は、どこかで見たことのあるようなオーソドックスな構成であるんですが
それだけに読み終わったあとに余韻を残してくれる秀作だったと思います。


《総評》
今回ははじめての投稿ということになりますので、どんなものを書いたらいいかわからず
どうしても躊躇してしまった人も多いのではないでしょうか。
投稿作品の中でも特に多かったのが「なぞなぞ」系とでも言える作品群でしたね。
最後に謎解きが示されていて、読み終わった後に謎がとけるみたいな作品なんですが
なかなか効果的に生かし切れている作品が少なかったように思います。

反対に散文詩のような叙情的な作品についても、やはり説明不足になってしまって
読者が共感できるところまでいっていなかったのが印象的でした。
感動ものというのは感情を昂ぶらせる”前置き”のほうが大切で
ダムにたとえるなら前置きで充分に貯水しておいてクライマックスで一気に放流するわけですが
クライマックスだけだと、水もちょろちょろと出るだけになってしまうんですね。
やはり掌篇小説では、どちらのタイプもいくぶん文章量が少なすぎるのかもしれませんね。

掌篇小説は字数の制約上、ライトノベルとちがって異世界ファンタジーなどの難しい設定よりも
説明不要の日常の情景(でもどこかがちょっとちがう)を描くほうが向いているんでしょうね。
そのうえでショートショートのように、いかにおもしろくオチをつけるのか
それとも余韻をもたせて終わらせるのか、そういうところで評価の分かれ目になるでしょう。
次回、8月期も楽しみにしていますので、ご応募よろしくお願いします!


<受賞作品全文掲載>

前向きにしか生きられない ラムネ著

私の隣の席には、博士がいる。みんな、そういうあだ名で彼を呼ぶのだ。
頭は良いけど、いつも無表情。何が起きても冷静沈着。でも変な奴。それが博士。
私は彼とは正反対な、感情的な女。
今日も、密かに一年以上片思いしていた遠野くんにカノジョが出来たという鬱情報を聞かされて、立ち直れないほど落ち込んでいた。
友達の聡美に愚痴りまくり、机に突っ伏して、もう死にたいよぉって後悔の念を垂れ流していると、置物みたいに黙って座っていた隣の博士に聞こえていたらしい。
「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない」
話を聞かれていたことに苛立った私が睨み付けても、博士は表情ひとつ変えずに呟く。
「いや、随分と後ろ向きだったから」
「こんなときに前向きになんかなれないわ」
「でも前向きに生きる方が、ずっと容易いと思うけどね」
「貴方なんかに何が分かるのよっ。容易いなんて、軽く言ってくれるじゃない・・・。だったらそれを証明してみてよ!」
すると博士は予想外の行動に出た。突然、立ち上がると、後ろ向きに椅子に座ったのだ。
そこからはずっとそのまんま。授業が始まっても、黒板を見もしない。先生に前を向けと怒られても、みんなが呆れて見ていても、「気にしないでくれたまえ」と涼しい顔。階段を下りる時まで後ろ向きでソロソロ歩いて・・・挙げ句の果てに一段踏み外して、転げ落ちる。さすがに私は博士にすがりついて、もうやめてよと訴えた。
「どうだろう。やはり前向きに生きたほうが、自然で容易いとは思わないだろうか」
なんか違うよ、と心底思ったけど、この人には何を言っても無駄な気がして、
「思えばいいんでしょッ!」って怒鳴ったら、
「それならいい。栄くんは、元気なほうが良いと思う」

そのとき初めて、ひょっとして私を慰めるためにやっていたんだろうかと考えて。
・・・・・・やっぱり、変な奴だと思った。



完全密室殺人事件 うれま著

「犯人はドラえもんだ!」
 刑事部長がまた何か叫んでいる。早く死ねばいいのに。
「被害者は六枚の鉄板を溶接して作られた正方形の部屋の中にいた。中には胸を刺された被害者ひとりのみで、凶器も見つからない。完全な他殺であるにもかかわらず、人間の出入りはおろか空気の漏れすらまったくない物理的に完全な密室だ。これで犯人がドラえもんでなかったら誰だというんだ!? あ、真犯人がわかったぞ!」
 展開はえーな。
「キテレツ君か!?」
 どっちもいねえし。ドヤ顔すんな。うぜえ。
 犯人も殺害方法もすでにわかってるっつーの。教えたらうるさいから黙ってるが。
「いやあ、さすがだね刑事部長君!」
 署長がニッコニコの笑顔でやってくる。また面倒なのが来たよ。
「今日も素晴らしい名推理だ! 我が署が県内トップの検挙率を誇るのは君のおかげだな」
「はっは。かのような密室、人間には不可能ですからな」
「当然だろう。実在の青少年には不可能だ。マスコミにもそう発表しよう」
 正気かよ。
「そう言うと思いまして、すでに手配してありますよ。記者会見は三時からです」
 ふざけんなハゲ。余計なことすんなボケ。あと一時間じゃねえか。
 イライラと待つ俺の元に一本の電話がかかってきた。部下からの報告を聞いた俺はほっと胸をなで下ろす。
 まにあったか……。
 ため息と共に受話器を置いた。
「部長、犯人が捕まったそうです」
「マジで!?」
「やっぱりドラえもんは実在したんだね!!」
 瞳を輝かせてハイタッチをかわす二人。俺は冷静に否定した。
「いえ、町の溶接工です。被害者を殺害したあと、外側から鉄板を溶接したそうです。指紋がべたべた残ってましたから」
「………………」
 二人の目にじわりと涙が浮かんだ。
「「死刑にしろ、必ずだ!」」
 涙目で声をハモらせる。
 お前らこそ早く死ねばいいのに。
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